最新記事

鉄道

割増運賃、半分座席......東京の満員電車対策はロンドンに学べ

2017年6月7日(水)15時46分
さかい もとみ(フリージャーナリスト)※東洋経済オンラインより転載

「ピーク時を避けて、閑散時に移動を」と促す交通局の広告。モチーフは富士山?(ピカデリーサーカス駅で、筆者撮影)

電車の混雑問題は何も日本だけの話ではない。19世紀に世界初の地下鉄が走ったロンドンもしかり。古い鉄道インフラを生かしながら、あの手この手で混雑解消を図っている。

ロンドンの地下鉄には、行き先別の運賃表がない

混雑解消の秘訣を紹介する前に、ロンドンの鉄道運賃システムについて簡単に説明しておこう。

市内を走っている鉄道は、大きく分けて地下鉄などを運営する「ロンドン交通局」と、旧国鉄の運営を引き継いだ「ナショナルレール」のどちらかに属する。これらの鉄道はひとつの運賃システムにまとめられており、相互に乗り継いでも「通し運賃」が適用される(高速鉄道の「サウスイースタンハイスピード」と、「ヒースローエクスプレス」、テムズ川のロープウェーである「エミレーツエアライン」を除く)。

運賃設定の計算根拠は、日本のような2駅間距離ではなく、ロンドン中心からの同心円で区切られた「ゾーン制」で定められる。最も中心のエリアは「ゾーン1」と呼び、そのゾーン内なら何駅乗ろうが均一運賃が適用される。以下、ゾーンをまたぐといくら、という形で運賃が設定されている。

あらためて路線図を見直すと、中心部から外に向かって1から9までの数字が記された「ドーナツ状の層」が描かれている。

これは余談だが、地下鉄と旧国鉄の運賃システムを統一したおかげで、2012年夏に開催されたロンドン五輪ではそれが大きく奏功した。組織委員会とロンドン市役所は観戦客全員に「ロンドン全域1日乗車券」を無料で配布すると決断。街中を走る地下鉄、電車、バスなどすべてを自由自在に乗れるようにした。地理不案内な訪英客にとって、市内での移動がずいぶんと楽になっただけでなく、道路交通の渋滞緩和につながるという大きな成果を得た。2020年に五輪開催を控えた東京でもこのような思い切った施策を採ってほしいものだ。

通勤ピーク時の利用客をできるだけ減らそうという施策がある。平日の混雑する時間帯に周辺部から都心部(逆向きも同様)に入ると2~3割増の運賃が適用される。つまり、混雑しない時間帯の運賃と差を付けて、時差通勤を促そうとしているわけだ。

ちなみに「ピーク」の時間帯は平日の始発~9時30分までと16時~19時。割増運賃は非接触型ICカード「オイスター」の利用者のうち、定期券を持たない「乗車ごとに運賃を支払う乗客」に適用される。

またこんな施策もある。郊外からロンドンを目指す鉄道利用者向けに「ロンドン市内交通1日乗車券付き往復券」というチケットがあるのだが、これも地元の郊外駅を平日9時30分以降に出発することを条件に大幅に値引きしている。特典を付けることで、都心へのピーク時における人の流入を少しでも食い止めようとしているわけだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

資産差し押さえならベルギーとユーロクリアに法的措置

ワールド

和平計画、ウクライナと欧州が関与すべきとEU外相

ビジネス

ECB利下げ、大幅な見通しの変化必要=アイルランド

ワールド

台湾輸出受注、10カ月連続増 年間で7000億ドル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 7
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 8
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 9
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 10
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中