最新記事

オセアニア

トンガで跋扈する中国のヒットマン

2017年6月7日(水)10時00分
クレオ・パスカル(英王立国際問題研究所研究員)

トンガの首都ヌクアロファの町 Chris Mellor-Lonely Planet Images/GETTY IMAGES

<中国人移住者がやりたい放題――国が中国の侵蝕を受けつつあるという不安の声も出ている>

一部の中国人が殺し屋を雇い、中国人コミュニティー内の商売敵を襲わせている――オセアニアの小さな島しょ国トンガのアキリシ・ポヒバ首相が4月、公の場でこんな発言をした。

別に衝撃の新事実、というわけではない。この問題は、トンガでは前から公然の秘密だった。オセアニアの多くの島しょ国には、最近移住してきた中国系移民により、中国本土の流儀が持ち込まれている。

中国本土には、無法地帯と化した土地が少なくない。ギャングに牛耳られている町も多く、権力者はしばしば好き放題に振る舞い、罪に問われることもない。12年に、殺人事件への関与疑惑や不正蓄財スキャンダルで失脚した重慶市の薄煕来(ボー・シーライ)共産党委員会書記(当時)をめぐる事件により、このような中国社会の暗部の一端が垣間見えた。

トンガやサモア、フィジーに移住して小売業の現場で働く中国人の多くは、もともとあまり裕福でなかった人たちだ。現地で事業を営む中国人実業家により、中国の農村部から連れてこられた人が多い。

たいていは、旅費や引っ越し費用、パスポートやビザの取得費用などを友人や親戚、時には違法業者から借金している。密入国業者の手を借りるケースもある。つまり、最初から汚職や犯罪に関係している移住者が少なくないのだ。

トンガではこの10年ほどの間に、新たに移住した中国人が小売部門の約80%を所有するようになった。そうした人たちの多くは、仕入れルートや親戚関係などを通じて、今も中国本土と結び付いている。

【参考記事】習近平「遠攻」外交で膨張する危険な中国

コミュニティー孤立に拍車

トンガの国籍を取得する人も多いが、ほとんどはトンガで金をためた後、中国に戻ったり、ニュージーランドやオーストラリアなどに移住したりするつもりでいる。そのため、社会に溶け込もうという意識が乏しい。

トンガなどオセアニアの島しょ国の社会では、コミュニティーの絆が大切にされている。店を経営しているのなら、地域社会に貢献することが当然と考えられているのだ。

それに対し、中国人の小売店経営者は地域社会への貢献をあまり考えずに済むので、ビジネスのコストを抑えられる。商品も中国本土から直接仕入れる場合が多い。そのため、トンガ人がどんなに頑張っても、中国人との競争に勝つのは難しい。

当然、中国人に対するトンガ人の反発は高まっている。06年にトンガで大暴動が起きたとき、中国人商店が標的になった理由の1つはここにある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

MAGA派グリーン議員、トランプ氏発言で危険にさら

ビジネス

テスラ、米生産で中国製部品の排除をサプライヤーに要

ビジネス

米政権文書、アリババが中国軍に技術協力と指摘=FT

ビジネス

エヌビディア決算にハイテク株の手掛かり求める展開に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 4
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中