トンガで跋扈する中国のヒットマン
こうした状況は、中国人コミュニティーの孤立に一層拍車を掛けている。その結果、中国本土の好ましくない慣習がますます持ち込まれやすくなっている。
トンガに最近移住してきた中国人たちは、人身売買、売春、営利誘拐、密輸、賭博、放火、殺人、さらには、ビザやパスポートの偽造や不正使用、税関職員の買収、盗品売買などの事件を起こしている。
トンガ政府の統計によれば、中国人コミュニティー絡みの犯罪が全ての犯罪に占める割合は3%程度だ(中国人コミュニティーがトンガの人口に占める割合も3%程度)。しかし、実際の犯罪件数はもっと多い。中国人コミュニティーの内部で起きた犯罪の半分以上は、そもそも警察に通報されないからだ。
しかも、中国人はしばしば、トンガ人を犯罪の手下や代理人として利用している。トンガ人を使って中国人コミュニティーの商売敵を襲撃させたり、店を焼き打ちさせたり、あるいは違法薬物を密輸させたりするケースも多い。
こうして犯罪が中国人コミュニティーだけでなく社会全体に広がっていくことにより、トンガ社会は大きな打撃を被る。既に、中国産の麻薬が普及し始めている兆候もある。
これまでのところ、犯罪対策で中国がトンガ政府に十分協力しているとは言い難い。駐トンガ中国大使は、トンガ在住の中国人の経歴チェックにもあまり協力していない。
むしろ、ポヒバ首相は3月末、中国人に対する犯罪について中国大使への陳謝に追い込まれた。中国大使はそれに対して、「被害者の合理的な補償請求に対して誠実な対応がなされていない」と不満を述べている。
興味深いのは、中国大使が国籍ではなく、民族を基準に考えているように見えることだ。大使は、中国本土出身者だけでなく、台湾出身者やフィジー出身者、トンガ出身者なども含めて全ての中国系の人たちの利害を代弁しようとしている。それにより、トンガの中国人コミュニティーへの中国政府の影響力が強まることになる。
【参考記事】中国、不戦勝か――米「パリ協定」離脱で
裏口から影響力を行使
時には、このような中国政府と海外の中国人コミュニティーの深い結び付きがあからさまに表れることがある。