最新記事

オセアニア

トンガで跋扈する中国のヒットマン

2017年6月7日(水)10時00分
クレオ・パスカル(英王立国際問題研究所研究員)

magw170606-tonga02.jpg

06年の暴動では中国人コミュニティーが標的に Gus Mclean/GETTY IMAGES

こうした状況は、中国人コミュニティーの孤立に一層拍車を掛けている。その結果、中国本土の好ましくない慣習がますます持ち込まれやすくなっている。

トンガに最近移住してきた中国人たちは、人身売買、売春、営利誘拐、密輸、賭博、放火、殺人、さらには、ビザやパスポートの偽造や不正使用、税関職員の買収、盗品売買などの事件を起こしている。

トンガ政府の統計によれば、中国人コミュニティー絡みの犯罪が全ての犯罪に占める割合は3%程度だ(中国人コミュニティーがトンガの人口に占める割合も3%程度)。しかし、実際の犯罪件数はもっと多い。中国人コミュニティーの内部で起きた犯罪の半分以上は、そもそも警察に通報されないからだ。

しかも、中国人はしばしば、トンガ人を犯罪の手下や代理人として利用している。トンガ人を使って中国人コミュニティーの商売敵を襲撃させたり、店を焼き打ちさせたり、あるいは違法薬物を密輸させたりするケースも多い。

こうして犯罪が中国人コミュニティーだけでなく社会全体に広がっていくことにより、トンガ社会は大きな打撃を被る。既に、中国産の麻薬が普及し始めている兆候もある。

これまでのところ、犯罪対策で中国がトンガ政府に十分協力しているとは言い難い。駐トンガ中国大使は、トンガ在住の中国人の経歴チェックにもあまり協力していない。

むしろ、ポヒバ首相は3月末、中国人に対する犯罪について中国大使への陳謝に追い込まれた。中国大使はそれに対して、「被害者の合理的な補償請求に対して誠実な対応がなされていない」と不満を述べている。

興味深いのは、中国大使が国籍ではなく、民族を基準に考えているように見えることだ。大使は、中国本土出身者だけでなく、台湾出身者やフィジー出身者、トンガ出身者なども含めて全ての中国系の人たちの利害を代弁しようとしている。それにより、トンガの中国人コミュニティーへの中国政府の影響力が強まることになる。

【参考記事】中国、不戦勝か――米「パリ協定」離脱で

裏口から影響力を行使

時には、このような中国政府と海外の中国人コミュニティーの深い結び付きがあからさまに表れることがある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請、4.4万件増の23.6万件 季

ビジネス

中国経済運営は積極財政維持、中央経済工作会議 国内

ビジネス

スイス中銀、ゼロ金利を維持 米関税引き下げで経済見

ビジネス

EU理事会と欧州議会、外国直接投資の審査規則で暫定
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキャリアアップの道
  • 2
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 3
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれなかった「ビートルズ」のメンバーは?
  • 4
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 5
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 6
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎…
  • 7
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナ…
  • 8
    ピットブルが乳児を襲う現場を警官が目撃...犠牲にな…
  • 9
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 10
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 10
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中