最新記事

いとうせいこう『国境なき医師団』を見に行く(ウガンダ編)

南スーダンからの80万人

2017年6月21日(水)19時10分
いとうせいこう

80万人を超える難民

だが、当初谷口さんから届いたメールには「難民」という言葉があった。しかも80万人を超える、とあったと思う。それはほぼすべてウガンダの北、南スーダン共和国から流入していた。そう、日本の自衛隊がついに武器を持って入り、突然去ることになったあの南スーダン、特に首都ジュバ地域である。

したがって、我々はまずウガンダ首都カンパラにあるMSFウガンダのコーディネーション・オフィスへ行き、そこで問題のすべてに関するブリーフィングを受けると、一泊したのちに北部のキャンプ(というか実は「移住区」と言うべきなのだが、それは説明を受けたあとにする)へと10時間ほどかけて赴くつもりであった。

キャンプの最北部が南スーダン国境にほぼ接していることはまだまったく知らず、俺はかの国で起きていることと自分が現在いるウガンダを結びつけて考えることが出来ないまま、ある意味ではノンキにまわりの自然を、あるいはセメントで作られた首都近郊の素朴な店舗の様子を眺めていたことになる。

丘の続く地形に移ればそこがカンパラで、渋滞など経ながら一時間半ほどすると車は左の小道に入り、突然のがたがた道を行けばどん突きに鉄扉があって、懐かしいMSFのマークが塗られていた。

車が中の急勾配を登ると、左右にコロニアル風の建物があり、左側のそれの入り口に屋根つきの大きいポーチが見えた。そのポーチの下に、数人の外国人スタッフがいるのもすぐにわかった。車から降りた我々はいつものスタイルで、彼らに近づいて一人一人に握手をし、もちろん名前を名乗った。

中で最も我々を待ちわびた様子であったのが、中背で少しだけ太った中年紳士ジャン=リュック・アングラードで、くしゃくしゃの髪の毛に度の強い眼鏡をかけたにこやかなフランス人だった。谷口さんは本当にうれしそうに彼の名を呼んで抱擁を交わしている。聞けば、ジャン=リュックはMSF日本支部でオペレーション・マネージャーとして4年半勤務し、家族と共に住んでいたのだという。それが今度はウガンダで会うというのだから、いかにも『国境なき医師団』らしい再会なのだった。

ito020170621b.jpg

宿舎にいるメンバーと食事の有無を示すボード

それぞれあてがわれた部屋に荷物を置き(ポーチのある建物が宿舎、急勾配の道の右がオフィスになっていた)、少しゆっくりしてからオフィスへ向かうと3階まで上がった。そこに活動責任者ジャン=リュックの部屋があった。

彼は実に優しげに人なつっこく笑う人で、笑うと八重歯が見えてかわいらしかった。アフリカ人の奥さんとの間に三人子供がいるうち、二人はフランスに残り、14才の男の子を連れてきているという。そして残った二人のうちの一人はミュージシャンで、その場で映像を見せてもらったがこれがかっこいいファンクバンドのボーカルなのだった。ジャミロクワイ的な粘りの声、そして弾むリズム感が素晴らしく、俺はついつい見入った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=ダウ436ドル安、CPIや銀行決算受

ビジネス

NY外為市場=ドル急伸し148円台後半、4月以来の

ビジネス

米金利変更急がず、関税の影響は限定的な可能性=ボス

ワールド

中印ブラジル「ロシアと取引継続なら大打撃」、NAT
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 2
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 5
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 6
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中…
  • 7
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 8
    「オーバーツーリズムは存在しない」──星野リゾート…
  • 9
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 10
    歴史的転換?ドイツはもうイスラエルのジェノサイド…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中