最新記事

中東和平

イスラエル人からトランプに託す究極の「ディール」

2017年5月23日(火)19時00分
アミ・アヤロン(イスラエルの情報機関シン・ベトの元長官)他

ユダヤ教の聖地、エルサレムの「嘆きの壁」を訪ねたトランプ(5月22日) Jonathan Ernst-REUTERS

<もしトランプに中東和平を実現する気があるなら、歴代米大統領の失敗を繰り返さないための策を授けよう>

イスラエル国民はワシントンで相次ぐドタバタ劇に驚きつつ、ドナルド・トランプ米大統領のイスラエル訪問が一体この地に何をもたらすのか気にしてきた。だが徐々に、トランプは歴史的な偉業を達成するため、イスラエルとパレスチナの和平合意という「究極の取引(ディール)」を実現したがっているらしいということがわかった。

【参考記事】トランプのエルサレム訪問に恐れおののくイスラエル

もしその言葉通りなら、イスラエルはトランプの意欲を歓迎する。

だがトランプ政権は和平をなし得なかった歴代の米政権の失敗から学び、従来とは異なる姿勢で取り組む必要がある。

さらにトランプ政権は、現時点で包括的な和平合意に達するのはほぼ不可能だと認めることから始めるべきだ。もしトランプが和平プロセスを再定義して進展に寄与することができれば、最大限の賛辞を手にするだろうが、その可能性は低い。

トランプがイスラエルを訪問したのは、第3次中東戦争でイスラエルがエルサレムを占領・併合した日(「6日戦争」)から数えてあと2週間で50周年というタイミングだった。1967年6月、建国19年だったイスラエルは、エジプトとシリア、ヨルダンの連合軍との戦争に勝った。だが不運にも、その大勝利を境にイスラエルはヨルダン川西岸を占領し、パレスチナ人に対する実効支配を始めてしまった。今も270万人に上るパレスチナ人が、イスラエルの支配下で暮らす。

入植者はゼロから40万人に

1967年6月以前には、ヨルダン川西岸にユダヤ人は一人も住んでいなかった。それが今や40万人以上のユダヤ人が移り住み(東エルサレムを除く)、イスラエル政府が承認した130カ所の入植地と、イスラエル政府に無許可で建設された非合法のアウトポスト約100カ所の入植地で暮らしている。

【参考記事】トランプはどこまでイスラエルに味方するのか:入植地問題

ヨルダン川西岸に居住するユダヤ人入植者が増え、パレスチナ人住民に対するユダヤ人の支配が一層強まるにつれて、双方の住民の間で衝突が拡大した。1987年と2000年にはパレスチナ人による「インティファーダ(イスラエルに対する民衆蜂起)」が勃発。過去2度とも、数年にわたる武力衝突で双方に多大な犠牲者を出した。

近年のイスラエルを標的にした暴力の連鎖やローンウルフ(一匹狼)型のテロ攻撃は、しばしば第3次インティファーダと呼ばれる。ちょうど先週の金曜も、パレスチナ人住民とイスラエルの治安部隊が衝突し、数十名の負傷者を出したばかりだ。

【参考記事】イスラエルの入植に非難決議──オバマが最後に鉄槌を下した理由

現状を打開するためには、ユダヤ人とパレスチナ人が離れて暮らすことが絶対に必要だ。「2国家共存」の原理に則った和平でなければならない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

政府、総合経済対策を閣議決定 事業規模39兆円

ビジネス

英小売売上高、10月は前月比-0.7% 予算案発表

ビジネス

アングル:日本株は次の「起爆剤」8兆円の行方に関心

ビジネス

三菱UFJ銀、貸金庫担当の元行員が十数億円の顧客資
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中