最新記事

南シナ海

トランプはドゥテルテをホワイトハウスに招いてはいけない

2017年5月9日(火)19時10分
エベリン・ファルカス(大西洋評議会シニアフェロー)

1907年にセオドア・ルーズベルト米大統領が「グレート・ホワイト(アメリカ大統領)」と呼ばれる米海軍の大西洋艦隊で世界一周したのを皮切りに、アメリカは太平洋地域での自国の権益を果敢に守ってきた。

そして今、スプラトリー諸島やパラセル(西沙諸島)は自国領土の一部と主張する中国が同海域で軍事活動を活発化させるなか、アメリカは公海における「航行の自由」と「貿易航路の開放」を死守しなければならない。南シナ海は世界で最も重要な海上交通路で、米防衛省の推計によると2015年にアメリカを往来した貨物の3割、金額にして1.2兆ドル相当が南シナ海を経由したとされる。

昨年、筆者を含む米政府の代表が訪日した際、日本政府高官は我々に、「今にも中国に南シナ海への海上輸送ルートを支配されそうだ」と語った。人工島建設や軍事拠点化を通じて、中国政府はすでに南シナ海の2つの戦略拠点を押さえている。2012年以降はスカボロー礁を支配し、パラセル諸島とスプラトリー諸島とを結ぶ「三角線」での海上交通を実質的に締め出した。

もし中国がこのままスカボロー礁の軍事拠点化に成功すれば、いずれは貿易航路を管理下に置くだろう。そうした動きは国際法違反だと非難したレックス・ティラーソン米国務長官の声明もお構いなしに、中国政府は3月、スカボロー礁に環境監視用の構造物を作ると発表。埋め立てと軍事拠点化に向けた第一段階になりそうだ。

バラク・オバマ前政権は、米海軍の艦艇を南シナ海に送り込む「航行の自由作戦」を繰り返し、中国の動きを牽制するという政策を取ったが、それでは中国は止まらなかった。

中国海軍は、東シナ海の尖閣諸島周辺の日本の領海付近にも相次いで公船を送り込んだ。米政府は尖閣諸島に日本の施政権が及ぶと認めており、今年2月にジェームズ・マティス米国防長官が訪日した際も、尖閣諸島の防衛義務はアメリカにあると明言した。

トランプ政権は目下、北朝鮮問題で協力を得たい中国に配慮して、南シナ海での「航行の自由作戦」を休止しているとする報道もある。だとえそれが事実だとしても、米政府がアメリカや同盟国、友好国の利益をいつまでも放棄するとは考えられない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日中、米国とそれぞれ電話首脳会談 国連に書簡も送付

ワールド

中国への「復帰」は台湾人の選択肢でないと行政院長、

ワールド

ブラジル政府予算、郵政事業悪化で打撃 事態さらに悪

ワールド

ロシア、対中石油輸出の拡大協議=ノバク副首相
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中