最新記事

中朝関係

中国は北にどこまで経済制裁をするか?

2017年5月1日(月)20時50分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)


改革開放に当たって、鄧小平は地方人民政府同士を競争させた。文化大革命で、中国経済が壊滅状態にあり、国の財産があまりに乏しかったからである。そのため地方人民政府による偽装GDPの中央政府への報告という現象も起きたが、実は中国は地方政府がまるで「一国一城の主」のような要素を持っているというのが、中国の他の一面でもある。一党支配体制では想像しにくいかもしれないが、中国経済に致命的な供給側の構造改革が進まない理由もそこにある。

同様に、「銭に向かって突進してしまった庶民のエネルギー」は、辺境であればあるほど、まだまだそのポテンシャルは高い。網の目のようにくまなく浸透してしまった辺境貿易を全て取り締るのは、容易ではない。

最近、中央テレビCCTVでは、中国政府が禁止した無煙炭の輸入を未だにこっそりやっている小規模企業の経営者の摘発などを盛んに報道している。逮捕された若い経営者が「禁止されているなんて知らなかった」と告白する場面をクローズアップすることもあれば、「取締りがもっと厳しくなるだろうから、今のうちに輸入して金儲けをしておきたいと思った」などという告白もある。そのため、かえって貿易額が増加している品目もある。

核兵器製造に必要とされる物品の輸出に関しては、中国は早くから禁止しているが、その法の網を潜り抜けて大企業に成長した「遼寧鴻祥実業発展公司」の経営者・馬暁紅が中米両国の協力で昨年逮捕されたことは象徴的だ。

第6回目の核実験がなくても中国は石油を止めるべき

トランプ大統領の褒め殺しによって追い詰められた習近平国家主席は、いよいよ決断の時が来たはずだ。

ティラーソン米国務長官は27日、「中国が北朝鮮に対し、『再び核実験を行えば独自制裁を科す』と警告したと、アメリカ側に伝達した」と語った。

その独自制裁とは「石油の北朝鮮への輸出を断つこと」であろう。

これを中国語では「断油」と称する。中国は「北朝鮮を支援したくて『断油』に踏み切らない」のではない。あくまでも戦略的理由で止めないだけだ。北朝鮮の崩壊の仕方によっては、崩壊した後の北朝鮮への影響力に影響が出てくるので、あくまでも中国の影響下にある「緩衝地帯」としての北朝鮮を残しておきたいだけなのである。金正恩(キム・ジョンウン)政権になってからの北朝鮮を、中国はもはや守ろうとは思っていない。習近平政権になってから中朝首脳会談が行われてないことからも、それは歴然としている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドイツ銀、28年にROE13%超目標 中期経営計画

ビジネス

米建設支出、8月は前月比0.2%増 7月から予想外

ビジネス

カナダCPI、10月は前年比+2.2%に鈍化 ガソ

ワールド

EU、ウクライナ支援で3案提示 欧州委員長「組み合
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 7
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 8
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 9
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中