最新記事

中朝関係

中国は北にどこまで経済制裁をするか?

2017年5月1日(月)20時50分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

ソ連崩壊で中国に接近――中国は北朝鮮の後ろ盾なのか?

そんなわけで中ソ対立の間、北朝鮮はおのずと旧ソ連との距離を縮め、経済支援だけでなく、ミサイルや核開発に関するノウハウを仕入れた。1991年12月に旧ソ連が崩壊すると、今度は中国に接近しようとしたが、1992年8月に中国が韓国と国交樹立。まだ休戦協定中で朝鮮の南北戦争が終わっていない状況において北朝鮮にとって、韓国は戦争中の敵国だ。

その韓国と国交樹立したことに激怒した北朝鮮は、「それなら『中華民国』と国交を樹立してやる!」と中国を脅した。

鄧小平は「やるなら、やってみろ!北朝鮮と国交を断絶してやる!」と北朝鮮を威嚇。
根を上げた北朝鮮だったが、「それなら経済援助を強化せよ」という威嚇外交を中国に突き付けたのだ。

「それなら改革開放をしろ!」と要求する中国に対して、北朝鮮は応じなかったが、少しずつ歩み寄りの姿勢を見せ始めた。


北朝鮮との辺境貿易は「改革開放」を促す手段

そこで鄧小平は改革開放の良さを思い知らせるために、辺境貿易を促進し、北朝鮮庶民の商売根性を刺激した。90年代の中国庶民の「銭への爆走」のエネルギーが、こんにちの中国の経済繁栄をもたらした原因の一つになっているが、金正日(キム・ジョンイル)は胡錦濤政権時代に改革開放に興味を持ち、中国を視察している。

この時代は、中国はまだ何とか北朝鮮をコントロールできた。

北朝鮮の核・ミサイル開発と中朝貿易――北の対中依存度90%に

北朝鮮は早くも1994年6月に国際原子力機関(IAEA)からの脱退を宣言している。それに対してアメリカは懐柔策を採り、「米朝国交正常化への道筋の枠組み」を条件にしながら「北朝鮮国内での核開発の凍結」を約束させた。ところが北朝鮮は核開発を凍結してはいなかった。そこから一気に今日までの状況に至るが、3月17日に来日したティラーソン米国務長官が「アメリカの、ここ20年間の対北朝鮮政策は失敗だった」と言ったのは、この辺の状況を指したものだろう。

国連における経済制裁や韓国のパククネ政権時代の開城(ケソン)工業団地閉鎖などに伴い、2010年前後までは対中依存度が約50%程度だった北朝鮮の貿易は、今では対中依存度90%にまで達していることが分かった(WTOデータなど)。

中国が政府として一定程度の経済制裁をしていてもなお、貿易額が減少せず、あたかも北朝鮮の経済を中国政府として支えているように見えるのは、この辺境貿易があるからだ。

一党支配体制で絶対的ヒエラルキーがあるはずの中国で、なぜ政府の命令に逆らって辺境貿易がはびこるのかという疑問があるが、これは「なぜ国有企業の構造改革ができないのか」という疑問と同じで、回答はただ一つ、地方人民政府の力が強いからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ和平で前進、合意に期限はないとトランプ氏

ビジネス

ステランティス会長、欧州自動車産業の「衰退リスク」

ワールド

米メディケア、15品目の薬価交渉で36%削減 27

ビジネス

豪CPI、10月は前年比+3.8%に加速 緩和サイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 8
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中