最新記事

BOOKS

沖縄の風俗業界で働く少女たちに寄り添った記録

2017年5月1日(月)15時49分
印南敦史(作家、書評家)

Newsweek Japan

<琉球大学の研究者が聞き取り調査をしてまとめた『裸足で逃げる』に記された、少女たちの仕事、家族、生い立ち、暴力と貧困のなかでの育児>

裸足で逃げる――沖縄の夜の街の少女たち』(上間陽子著、太田出版)は、沖縄の複雑な環境下で暴力を受け、そこから逃れ、なんらかの"居場所"にたどり着いた女性たちの足跡を綴ったノンフィクション。

琉球大学教育学部研究科教授である沖縄出身の著者は、長らく非行少年少女の問題を研究してきた人物。1990年代後半から2014年にかけては東京で、それ以降は沖縄で未成年の少女たちの調査や支援に携わってきたのだという。本書は2012年の夏から2016年の夏にかけ、沖縄で行われた調査に基づいたものである。

取材に際しては各女性たちが指定する職場や馴染みの店などに出向いていき、ICレコーダーで録音しながら、子どものころの出来事、仕事のこと、家族やパートナーとの関係、子どもの育て方などを聞いている。


 沖縄で、風俗業界で仕事をする女性たちの調査をはじめようと思ったのは二〇一一年だった。
 沖縄の風俗業界には、未成年のときから働き出した女性たちがいると伝え聞いていた。年若くして夜の街に押し出された彼女たちがどのような家族のもとで育ち、どのように生活をしているかがわかれば、暴力の被害者になってしまう子どもたちの生活について話し、それを支援する方法について考えることができるのではないだろうか。(9ページ「まえがき」より)

取材対象となっているのは10代から20代の若い女性で、キャバクラで働いていたり、援助交際をしながら生活をしているという共通点がある。もともとは風俗業界で働く女性たちの仕事の熟達の過程、そして幼少時からの出来事に注目した聞き取り調査として行われたのだそうだ。

しかし、そこで聞いた話が予想していたよりもはるかに"しんどい"ものだったため、このような形になったというわけだ。事実、読んでみて痛感させられたのも、各人の環境の悪さだった。文字どおり「どうしようもできない」環境のなかで必死に自我を保とうとする女性たちの姿は、正直なところ痛々しくもある。


 この調査でお会いしたシングルマザー全員が、自分のパートナーであり、子どもの父親でもある男性との関係を解消したあと、慰謝料も養育費も一銭ももらえず、単身で子どもを育てることを強いられていた。子どもを引き取った彼女たちは、スーパーやコンビニのレジの八〇〇円程度の時給よりも高い二〇〇〇円前後の時給のキャバクラで働くことで、子どもの面倒を見ることと生活費を得ることを両立させようとしていた。つまり、沖縄のキャバ嬢たちは、子どもをひとりで抱えて、時間をやりくりして生活する年若い「母」でもあった。(58ページより)

沖縄の風俗業界で働く女性について考えるとき、見逃すべきでないのはこの部分だろう。あくまで一般論の、しかも意地の悪い観点からすれば、風俗の仕事をすることは「自己責任」だ。どれだけ悲惨な目に遭おうとも、「その仕事を選んだのは自分でしょ」と考える人だっていないとは限らない。

【参考記事】震災1週間で営業再開、東北の風俗嬢たちの物語

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

景気判断「緩やかに回復」維持、物価高継続の影響など

ワールド

9月改定景気動向指数、114.6で速報値と変わらず

ビジネス

利上げで逆ザヤ発生、国債評価損32.8兆円と過去最

ワールド

韓国与党、対米投資資金3500億ドル確保へ 基金設
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中