最新記事

生命科学

プラスチック製「人工子宮」でヒツジの赤ちゃんが正常に発育

2017年4月28日(金)18時45分
松岡由希子

Fox News-Youtube

<米フィラデルフィア小児病院の研究チームが、「子宮の仕組みを模倣した独自の人工子宮システム『バイオバッグ』の中で早産のヒツジを正常に発育させることができた」と発表した>

世界保健機関(WHO)学によると、妊娠37週未満で生まれる早産児の数は世界全体で年間およそ1,500万人。早産児は肺などの生命機能が未熟なため様々な合併症を引き起こすリスクがあり、早産によって年間100万人もの子どもが5歳未満で亡くなっている。

従来、早産児は、新生児特定集中治療室(NICU)で保育されてきたが、この施設で使用される機械式ポンプが肺や心臓に負担をかけて循環不全を引き起こしたり、免疫力が弱いために感染症にかかるなど、子どもが慢性的に健康を損なうリスクも小さくない。

人工子宮システム『バイオバッグ』

米フィラデルフィア小児病院のアラン・フレイク医師を中心とする研究チームは、2017年4月26日、英科学雑誌『ネイチャー・コミュニケーションズ』において、「子宮の仕組みを模倣した独自の人工子宮システム『バイオバッグ』の中で早産のヒツジを正常に発育させることができた」と発表した。妊娠23週から24週のヒトの胎児に相当する妊娠105日から120日のヒツジ8匹を対象に実験を行ったところ、正常に呼吸し、肺や脳なども順調に発達したことが認められたという。

matuoka2.jpg


『バイオバッグ』は、合成羊水で満たされたポリエチレン製の透明な密閉式の袋。この"人工子宮"に入った胎児は、臍帯に通された管で外部の装置とつながり、自らの小さな心臓を使って、血液を循環させ、酸素を取り入れたり、二酸化炭素を排出したりする。

機械式ポンプを使わず、胎児の心拍だけで作動するため、心臓を傷つけることなく、スムーズに血液を循環させることができるのが特徴だ。

【参考記事】肺にまさかの「造血」機能、米研究者が発見

ヒトにも応用できる可能性がある...

また、合成羊水は、継続的に交換しながら『バイオバッグ』の内部を満たす仕組みとなっており、栄養の供給や肺をはじめとする器官の発達促進、感染症の予防などの役割を担っている。

ヒツジは、肺の発達においてヒトと似ているといわれている。つまり、『バイオバッグ』で早産のヒツジを正常に生育させることができれば、この仕組みをヒトにも応用できる可能性があるというわけだ。

研究チームでは、『バイオバッグ』のさらなる改良に取り組むとともに、とりわけ、妊娠23週から28週のヒトの早産児への応用に向けて、研究をすすめていく方針だという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中