最新記事

日中関係

習近平が言及、江戸時代の日本に影響を与えたこの中国人は誰?

2017年3月15日(水)16時07分
舛友雄大(アジア・ウォッチャー)

呼応するように、隠元僧師を顕彰する動きが日本にも広がってきている。

「数十年来の夢が実現した」。隠元僧師が日本滞在の最初の1年を過ごした長崎・興福寺住職の松尾法道さんは、興奮冷めやらない様子でそう語る。昨年1月、中国側の招待で、念願の黄檗山萬福寺への訪問が実現した。先代の住職も萬福寺を訪れたがっていたが、先先代の住職が盲人であったため実現しなかったという。この1年程で急に「隠元ブーム」がやってくるとは思いもしなかった。

2016年8月、中国から200名の仏教関係者が隠元僧師の足跡をたどり、豪華客船に乗って長崎に来た。また、千葉在住の陳熹さんは、隠元僧師と同郷ということもあり、同年11月に一般社団法人黄檗文化促進会東京事務所を立ち上げ、自費で活動を始めた。日本で黄檗文化を広めるのが目的だという。

京都は中国人観光客であふれかえっているが、隠元僧師が眠る宇治・萬福寺ではまだまだ人もまばらだ。中国語の標識ひとつたっていない。だが、没後350年にあたる2023年の法要では「中国側からも参加者を呼ぶ」(盛井幸道・萬福寺執事長)意向だ。

2017年、2018年は、それぞれ日中国交正常化45周年、日中平和友好条約締結40周年にあたり、本来であれば、日中首脳の相互訪問が実現する年だ。中国の習近平国家主席が日本にやってくる場合、長崎や京都にある隠元ゆかりの寺を目的地の候補とする可能性はなきにしもあらずではないだろうか。

【参考記事】20世紀前半、帝都東京は中国人の憧れの街だった

実際、胡錦濤国家主席(当時)は2008年の訪日中に唐招提寺(奈良)を訪問するなど、歴代の中国要人訪日では、地方都市で中国と縁のある場所を訪れることが慣例となっている。特に、習近平氏は2001年の省長時代に長崎県を訪問したことがあり、1998年から2010年まで長崎県知事を務めた金子原二郎・現参議院議員とはこれまで5度も会見している。

近代日本において、「インゲン豆」として名前に残っているだけで、隠元僧師が大きな注目を集めることはなかった。この忘れられた僧師が再び日中で注目される日はそう遠くないかもしれない。

[筆者]
舛友雄大
2014年から2016年まで、シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院アジア・グローバリゼーション研究所研究員。カリフォルニア大学サンディエゴ校で国際関係学修士号取得後、調査報道を得意とする中国の財新メディアで北東アジアを中心とする国際ニュースを担当し、中国語で記事を執筆。今の研究対象は中国と東南アジアとの関係、アジア太平洋地域のマクロ金融など。これまでに、『東洋経済』、『ザ・ストレイツタイムズ』、『ニッケイ・アジア・レビュー』など多数のメディアに記事を寄稿してきた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、中距離弾でウクライナ攻撃 西側供与の長距離

ビジネス

FRBのQT継続に問題なし、準備預金残高なお「潤沢

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中