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インタビュー

アメリカ人に人気の味は「だし」 NYミシュラン和食屋の舞台裏

2017年3月31日(金)11時10分
小暮聡子(ニューヨーク支局)

日本で食べるよりおいしい魚もある

――刺身は日本から空輸しているものの方がおいしいという先入観があったのだが。

そんなことはない。ニューヨークには、日本人に教えてもらって「生け締め」を上手くできるようになったアメリカ人も少数だがいる。

日本で言う生け締めとは、基本的には釣った魚をその場で漁師が締めたり、いけすで生かしておいた魚を生きたまま市場に持って行き、市場の職人が締めるというシステムだ。日本はそうした流通機関がしっかりしているし、魚の管理能力が半端ではない。

ニューヨークではそんなことやっていないし、やれる人もいなかった。そもそもここでは、レストランで魚をいけすなどで生かしておいて自分たちで締めることは違法だ。ロブスターなど甲殻類は規定がないのだが。

饗屋では、生きている魚を扱っている魚屋で仕入れる日の朝に締めてもらっている。

だが、全ての魚でそれをやる必要はないし、寝かせておいしい魚もたくさんある。

管理された魚を日本から入手することもできる。例えば、今だと下関からのトラフグが皮を剥いて中の内臓を取った状態で、「みがき」になって入ってくる。真空パックで冷凍されてやって来るのだが、その身も素晴らしい。これはやはり、日本の技術なのだと思う。

――日本で食べるよりもおいしいと思う魚はあるか。

大西洋マグロのほかに、サバもいい。特にボストンのサバはすごくいい。ここ数年いなかったのがこの1~2年で戻って来ていて、サイズは少し小さいが脂が乗っていてとてもおいしい。

日本でサバを養殖しているというのはすごい技術だが、やはり天然の、その中でも釣る人が「この時期に釣ったものはおいしい」と見極めて釣ったサバの方がおいしい。日本から仕入れた天然サバの場合、ボストンのサバほどではない場合が多々ある。

饗屋で出している「炙り〆鯖の棒寿司」には、デンマークのサバを使っている。同じ北欧だとノルウェーのサバもよく獲れるのだが、ノルウェーのサバは脂、つまり水分が多すぎて、煮たり焼いたりするには適していても締めて食べるのには向かない。

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デンマークのサバを使った人気メニュー「炙り〆鯖の棒寿司」 Satoko Kogure-Newsweek Japan

鯖の棒寿司に、脂は必要以上には要らない。店の開店前に仕込んでおいてお客さんに出すまでに最低3時間、できれば5時間くらい置いておくと、シャリにサバのうまみが回り、一体化されておいしくなる。

――魚の仕入れ先は、常に世界中から探しているのか。

探している。店をオープンしたての頃は誰からも相手にしてもらえないので自分で調べて開拓していたのだが、ミシュランで星をもらったりと名前が知られるようになってきたら、魚屋さんが向こうから食材のサンプルを持ってきてくれるようになった。「うちにはこんなものがあります、使ってみて下さい」と。

ワインなどはイタリアから業者さんが来たりもする。特にミシュランはヨーロッパが本拠地なので、ニューヨークという大きなマーケットに向けてヨーロッパから売り込みに来る。

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