最新記事

インタビュー

難民を敵視するトランプ時代を、亡命チベット人はどう見ているか

2017年2月24日(金)15時32分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

「美しい国・日本の国民に感謝している」

40分を超える単独インタビューとなったが、最後に日本人へのメッセージを聞いた。

◇ ◇ ◇

センゲ大臣:
「日本はアジアでもっとも影響力がある豊かな国のひとつであり、長い民主主義の歴史と、仏教の歴史を持っています。したがって、我々にとって、日本は民主主義と発展と文化の保持の面でモデルなのです。

私は可能な限り年に一度は日本に来ようと思っています。日本を通じてアジアや世界に対し、「チベット問題は重要」と力強く肯定的なメッセージを伝えられますからね。我々チベット人は美しい国・日本と国民の皆さんにとても感謝しています。

妻と娘も日本が大好きです。ほかの国を訪問するときに、彼女たちはいつもいやいやついてくるのですが、日本には喜んでついてきますからね(笑)。

ですから、日本の心遣いとチベット問題に対する長年の支援に感謝しております。そして、今後もそれを続けることをお願いしたい。チベット問題が解決するにはまだ何十年もかかるでしょう。しかし、近い将来チベットに変化がもたらされることに希望を持っています」

◇ ◇ ◇

2011年にダライ・ラマ14世が「政治的に完全に引退」を宣言してから6年。センゲ大臣はダライ・ラマ14世に代わり、世界にチベット問題をアピールし続けてきた。国土も主権もなく世界各地に散らばる14万人余りの亡命チベット人をまとめつつ、年々国際的発言力を増す超大国・中国に向き合うのは並大抵の仕事ではない。

【参考記事】ダライ・ラマ亡き後のチベットを待つ混乱

そして今、世界的に難民への風当たりが強まり、国際世論の共感が薄れつつあるだけでなく、チベット亡命政府の後ろ盾となってきた欧米諸国でも民主主義が各国で行き詰まりを見せている。センゲ大臣の前途は難題山積だ。

しかし、インタビューではセンゲ大臣はユーモアを交えつつ、流暢な英語で歯切れよく国際情勢を分析。トランプ政権も冷静に見極め、その中国への強硬姿勢を利用しようというしたたかさを持ち備えていた。圧倒的な存在感を誇るダライ・ラマ14世の政治的後継者となるのは相当なプレッシャーがあるはずだが、そんなことは感じさせない落ち着いた物腰が印象的だった。

[筆者]
高口康太
ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

香港当局、高層住宅火災受け防護ネット全面撤去へ

ワールド

インドネシア、採掘規則違反企業を処分へ 洪水で死者

ビジネス

日銀、12月会合で利上げの可能性強まる 高市政権も

ワールド

アングル:「高額報酬に引かれ志願」、若きウクライナ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 3
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 10
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中