難民を敵視するトランプ時代を、亡命チベット人はどう見ているか
「美しい国・日本の国民に感謝している」
40分を超える単独インタビューとなったが、最後に日本人へのメッセージを聞いた。
センゲ大臣:
「日本はアジアでもっとも影響力がある豊かな国のひとつであり、長い民主主義の歴史と、仏教の歴史を持っています。したがって、我々にとって、日本は民主主義と発展と文化の保持の面でモデルなのです。
私は可能な限り年に一度は日本に来ようと思っています。日本を通じてアジアや世界に対し、「チベット問題は重要」と力強く肯定的なメッセージを伝えられますからね。我々チベット人は美しい国・日本と国民の皆さんにとても感謝しています。
妻と娘も日本が大好きです。ほかの国を訪問するときに、彼女たちはいつもいやいやついてくるのですが、日本には喜んでついてきますからね(笑)。
ですから、日本の心遣いとチベット問題に対する長年の支援に感謝しております。そして、今後もそれを続けることをお願いしたい。チベット問題が解決するにはまだ何十年もかかるでしょう。しかし、近い将来チベットに変化がもたらされることに希望を持っています」
2011年にダライ・ラマ14世が「政治的に完全に引退」を宣言してから6年。センゲ大臣はダライ・ラマ14世に代わり、世界にチベット問題をアピールし続けてきた。国土も主権もなく世界各地に散らばる14万人余りの亡命チベット人をまとめつつ、年々国際的発言力を増す超大国・中国に向き合うのは並大抵の仕事ではない。
【参考記事】ダライ・ラマ亡き後のチベットを待つ混乱
そして今、世界的に難民への風当たりが強まり、国際世論の共感が薄れつつあるだけでなく、チベット亡命政府の後ろ盾となってきた欧米諸国でも民主主義が各国で行き詰まりを見せている。センゲ大臣の前途は難題山積だ。
しかし、インタビューではセンゲ大臣はユーモアを交えつつ、流暢な英語で歯切れよく国際情勢を分析。トランプ政権も冷静に見極め、その中国への強硬姿勢を利用しようというしたたかさを持ち備えていた。圧倒的な存在感を誇るダライ・ラマ14世の政治的後継者となるのは相当なプレッシャーがあるはずだが、そんなことは感じさせない落ち着いた物腰が印象的だった。
[筆者]
高口康太
ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)。