最新記事

BOOKS

児童相談所=悪なのか? 知られざる一時保護所の実態

2017年2月23日(木)11時35分
印南敦史(作家、書評家)

社会的養護とは、実家庭で育つことができない子どもたちに、社会が代替的に提供する養育環境のこと。施設養護と家庭養護があり、前者の代表が児童養護施設、後者は里親家庭というわけだ。

しかし、ここに至るまでにも、いくつもの障害が立ちはだかっていることは先にも触れたとおり(あるいはそれ以上)だ。児童相談所側は「子どもの安全を守るために一時保護は当然の措置」と考えるが、親は「児相に子どもを取り上げられた」と考えることが多いからである。

しかも我々のような一般人には断片的な情報しかもたらされないため、「児童相談所=悪」のような"無責任なイメージ"だけが肥大化していくことになるのだろう。

ただし、それは単なるイメージでしかなく、基本的には憎しみを持って子どもと向き合っている職員などいないと考えるべきではないだろうか。その証拠に本書においても、理想と現実の狭間で苦悩する現場の人々の言葉が紹介されている。


「うちのケースワーカー(注:児童福祉司のこと)たちはみな疲れています。午前八時半から働き始め、仕事をしている親に会おうとすると、仕事終わりが夜一〇時を過ぎることも多いです。この児童相談所だけの話ではありません。二カ月に一度県内の児童福祉司会議がありますが、県内のすべての児童福祉司がみな同じ状態にあります。自分たちの仕事について時間をとって振り返る暇もなく、毎日ケースをおいかけています」。(179~180ページより)


「自分自身が子育て中であるにもかかわらず、自分の子どもに対してきちんとケアをしてあげられないのが辛い。たとえば、自分の子どもが明日受験なのに、虐待対応のために一緒にいてあげられないといったことがある。他人の子どものことをしながら、自分の子どもが後回しになっている現実に、日々葛藤が絶えません」。(182ページより)

「児相はけしからん」という主張がされがちなのは、声を上げるのは親ばかりという現状があるからだと著者は指摘する。しかし、大切なのはそのような感情論ではないはずだ。今後、行政にどんなことをしてもらうべきか、それだけでなく、広がりを見せる「子ども食堂」がそうであるように、民間にできることはないのかなどを私たちひとりひとりが考えていく。

本当に求められているのは、そのようなことではないだろうか。



『ルポ 児童相談所:一時保護所から考える子ども支援』
 慎 泰俊 著
 ちくま新書

[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に、「ライフハッカー[日本版]」「Suzie」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、多方面で活躍中。2月26日に新刊『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)を上梓。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ベラルーシ、平和賞受賞者や邦人ら123人釈放 米が

ワールド

アングル:ブラジルのコーヒー農家、気候変動でロブス

ワールド

アングル:ファッション業界に巣食う中国犯罪組織が抗

ワールド

中国で「南京大虐殺」の追悼式典、習主席は出席せず
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 5
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 6
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    「体が資本」を企業文化に──100年企業・尾崎建設が挑…
  • 10
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中