最新記事

米中関係

南シナ海、米中戦争を起こさず中国を封じ込める法

2017年2月14日(火)17時09分
アレクサンダー・ビュビン(ダニエル・イノウエ アジア太平洋安全保障研究センター教授)

ただ仲裁裁判所には、中国を判決に従わせる力がない。そのため共通の利益のために行動し、中国に判決を守らせられるかどうかは、国際社会にかかっている。幸い、国際法は国家が違法行為に対抗措置を取るのを認める。米海軍大学校のジェームズ・クラスカ教授(国際法)は、中国を標的にした人工島の封鎖に法的な問題はないという。中国が他国に対してやってきたことを考えれば、自業自得というわけだ。

法的な問題の有無に関わらず、中国が占拠する人工島へのアクセスを封鎖したら、中国が挑発行為とみなし武力衝突を引き起こす危険性があると、多くの人は懸念する。だがそれは大げさだ。中国がスカボロー礁やセカンド・トーマス礁を海上封鎖したとき、誰もそれを戦争行為として糾弾しなかったし、その後も武力衝突は起きなかった。中国流にいけば、キャベツ戦術は開戦理由を骨抜きにし、中国に戦争を思い止まらせるものだ。

国家主義的な世論の高まりに押されて、中国の政治指導者がアメリカとの武力衝突や戦争に事態をエスカレートさせることへの懸念は残る。だが中国のナショナリズムが専門のジェシカ・ウェイスは、中国の国家主義者の抗議活動の研究で、国家主義的な世論は中国の強硬外交の原動力ではなく、むしろ政府が対外的な決意を示すのに用いる道具という側面の方が強いと明らかにした。最近はハーバード大学のアラステア・イアン・ジョンストン教授(政治学)も、2009年以降は普通の北京市民の間で国家主義的な傾向が下火になったことを示すなど、同様の結論に至った。

戦争したくないのは中国

そもそも、中国は軍事力で米軍に劣る一方、南シナ海を経由する海上輸送への依存度がはるかに大きい。南シナ海で戦争を回避したいのはアメリカより中国のほうだ。大規模な軍事衝突の回避は、南シナ海における中国の重要な長期戦略の一つでもある。ここ数年で中国が軍事行動の拡大に踏み切ったのは、戦争でも平時でもないグレーゾーンで、アメリカの抑止力が機能しなかったからだ。中国がグレーゾーンでの活動を優先させるのは、核抑止と通常抑止がきちんと機能するかを確かめるためでもある。戦争を回避しつつ中国に国際法を順守させるには、どうしたらいいのか。

【参考記事】一隻の米イージス艦の出現で進退極まった中国

南シナ海での領有権争いに関わる当事者は、中国とアメリカだけではない。周辺諸国や国際社会もある。最も理想的な世界では、これら当事者が一丸となって行動を起こせば、国際法に従うよう中国を説得するチャンスが広がる。アメリカが日本やインドなどの主要国や、フィリピンやベトナムのような周辺国の力を結集して臨めば尚更だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ローマ教皇、4月にアフリカ4カ国歴訪へ 今年初の外

ワールド

IMF、消費減税を時限的措置とする点など一定の評価

ビジネス

トヨタ、1月世界販売4.7%増 北米・欧州好調で同

ワールド

米通商法301条に関する責任、既に果たしている=中
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
2026年3月 3日号(2/25発売)

フィンテックの進化と普及で、金融はもっと高速に、もっとカジュアルに

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 2
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 3
    最高裁はなぜ「今回は」止めた?...トランプ関税を違憲とした「単純な理由」
  • 4
    3頭のクマがスキー客を猛追...ゲレンデで撮影された…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    【クイズ】サメによる襲撃事件が最も多い国はどこ?
  • 7
    2月末に西の空で起こる珍しい天体現象とは? 「チャ…
  • 8
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 9
    住宅の4~5割が空き家になる地域も......今後30年で…
  • 10
    「IKEAも動いた...」ネグレクトされた子猿パンチと「…
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 3
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 4
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
  • 5
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 6
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 7
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 8
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 9
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの…
  • 10
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 5
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中