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パキスタン

不屈の少女マララが上る大人への階段

2017年2月7日(火)10時00分
ミレン・ギッダ

ナイジェリアでは、イスラム過激派ボコ・ハラムに誘拐された少女のためにカウンセリングと高校の奨学金を提供。レバノンでは、シリア難民のための学校を開設した。ヨルダンでは、2つの難民キャンプで教育プログラムに資金援助を行っている。

昨年12月、基金の理事会が開かれた。新イニシアチブ「グルマカイ・ネットワーク」の新たな助成金の配分を決めるためだ(「グルマカイ」はユサフザイが11歳の頃にBBCのウルドゥー語ブログにタリバン支配下の生活をつづっていたときのハンドルネーム)。現地住民による就学支援プログラムを対象に、今後10年にわたって年間最高1000万ドルを投資する予定だ。

ユサフザイは理事会には出席したが、基金の日常的な運営には携わっていない。今は学業優先の生活だ。だが大学を卒業したら、(彼女が望めば)基金を思いどおりにできる。基金は歴史こそ浅いが、影響力は大きい。ユサフザイがトップになれば、彼女(と理事会)が支持するにふさわしいと考える理念に巨額の資金を投資できる。

大学を出たばかりでそんなチャンスに恵まれる若者はめったにいない。それ自体はありがたいが、「マララ」であること、タリバンに襲撃されて生き延びた少女であることによって失ったものを思って悲しくなることもあるという。

「19歳になった今、振り返ってみると思う。私の青春は、私の子供時代はどこにあったのって」と、彼女は言う。「私くらいの年頃で、学校教育が禁止されたり、テロリストに会ったり、重要な問題のために活動したり、世界の指導者に会ったりしたことのある子供は多くない」

【参考記事】日本と中東の男女格差はどちらが深刻か

学校では「普通でいたい」

学校の友達も彼女の過去を知っているが、ユサフザイは友達とはそういう話はしない。自身の果敢な戦いや、基金が主導する運動も話題にしない。「友達とは深刻過ぎる話はしないようにしている。普通でいたい」

取材中、彼女は「普通」という言葉を20回以上使った。いろいろなことをやってきたが、自分は今でも普通だと繰り返す。活動家や有名人としての自分について語る際は人ごとのように話す。国家元首に会う自分は別人とでもいうかのようだ。学校でしばらく友達ができなかったことについては、「最初は私のことを怖がってた子もいたんじゃないかな」と言う。

自分は「すごく内気」だと言うユサフザイは、新しい学校で友達ができるまでに何カ月もかかった。今でも何か起きてクラスメイトの自分を見る目が変わったり、やっぱりあの子はちょっと違うと思われたりしないか心配だという。

大学に進学すれば新しい友達をつくらなければならず、生まれて初めて家族と離れて生活することになる。オックスフォード大学以外にも出願しているが、どの大学に行くにしても、世界中の大勢の子供たちと同じように、初めて親元を離れて暮らすことになる。

本人は楽しみにしているが、家族は複雑なようだ。米カリフォルニア州のスタンフォード大学を一緒に見学した際、父親のジアウディンは担当者に、キャンパス内に家族が滞在できる施設はあるかと尋ねた。娘がこの大学に入ったらこっちに引っ越したいので、と。だがあいにく担当者の答えはノーだった。

その瞬間、ユサフザイは大人の世界に一歩近づいた。希望に満ちた素晴らしい子供時代以上に輝きにあふれる世界に。

[2017年2月 7日号掲載]

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