最新記事

国際政治

難民入国一時禁止のトランプ大統領令──難民の受け入れより難民を生まない社会づくりを

2017年2月6日(月)16時00分
米川正子(立教大学特任准教授、元UNHCR職員)

ロサンゼルスの空港で、トランプが出した難民に対する入国禁止令に抗議する人々(1月29日) Patrick T. Fallon-REUTERS

<難民の入国を一時禁止するドナルド・トランプ米大統領の大統領令が波紋を広げている。アメリカ各地の国際空港では「アメリカは難民を歓迎する」というボードを掲げた人々がトランプに抗議する姿が見られたが、すべてを禁ずるのも来る者すべてを受け入れるのも、現実的な解決策ではないのではないか>

難民入国一時禁止に関するトランプ大統領令が世界中を混乱させていることは、既に読者もご承知の通りである。さまざまな国家元首やオピニオン・メーカーなどがそれを批判しただけでなく、アメリカ政府に常に配慮している国連事務総長までが、「すぐに撤回されるべきだ」と述べたほどだ(2月5日現時点で、ワシントン州連邦地裁は全米で大統領令の即時停止を命じる仮処分の決定を出した)。

私は入国一時禁止に同意はしないものの、アメリカ各地の空港などで「難民を歓迎する。彼らを入国させよ」といったサインボードを掲げた多くのアメリカ人やカナダのトルドー首相の「難民歓迎」の態度に対しても100%同感できず、複雑な思いを抱いている。

確かに紛争や迫害の犠牲者である難民を、アメリカなどの国々が受け入れ、助けることは人道的で善い行為であろう。しかしこの機会に、下記の点について振り返ってみたい。そもそも難民は誰の責任によって発生しているのか。また今回の難民入国(一時)禁止のような政策は過去にあったのか。そして難民にとって、アメリカなどの国々における定住は持続的な解決策なのか。

難民発生の裏の多くにアメリカの介入

難民の背景に関しては、2月6日出版の拙著の『あやつられる難民ー政府、国連とNGOのはざまで』(ちくま新書)をご一読していただければ幸いだが、ISやアルシャバブなどのいわゆる「テロ集団」や反政府勢力だけではなく、国民保護という責任を持つ政府も難民を発生させていることは広く認識されていないようだ。しかも、いわゆる脆弱・失敗国家だけではなく、アメリカ政府をはじめとする「民主主義国家」でさえ、難民発生に直接的、あるいは間接的に関与している。

例えば、アメリカがシリア、アフガニスタン、イラク、スーダンを爆撃したことによっても難民が発生している。それは、アメリカのネットメディアのデモクラシー・ナウ!でも報道している(11分から14分まで)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮の金正恩氏、娘とホテルの開業式典に出席 経済

ワールド

マクロスコープ:高市氏は来年どう臨む、解散で安定政

ワールド

中国、26年に都市再開発・住宅市場安定化の取り組み

ビジネス

午後3時のドルは156円ちょうど付近へ反落、日銀利
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 4
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 5
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 6
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 7
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中