最新記事

アート

美術鑑賞とソーシャル拡散は両立するか? アーティスト束芋の回答

2017年2月3日(金)15時00分
佐藤千紗 ※Pen Onlineより転載

束芋「網の中」(2017)  映像インスタレーション作品 スチルイメージ © Tabaimo / courtesy of IMO studio

最近は、写真の撮影を許可する美術館も増えてきました。SNSなどで魅力的な展覧会の写真を見つけ、出掛けたことがある人も多いのでは? 一方で、会場でシャッター音が気になったり、撮影する人の邪魔にならないように気を遣って、作品に集中できないこともあります。そんな美術館での写真撮影とネットによる拡散をめぐる状況に、アーティスト・束芋が正面から取り組んだ作品「網の中」が京都文化博物館にて公開されます。

これまで束芋は、見る人に最高のパフォーマンスで作品に接してもらうため、会場での作品撮影を禁止してきました。鑑賞者による写真撮影は「作品と身体的に関わる」ことを妨げ、液晶画面や光に照らされる顔は他の鑑賞者の邪魔になると考えてきたからです。また、ネット上に拡散される画像が実際の展示に足を運ぶ機会を妨げたり、初対面の感動を冷めたものにする可能性も感じるといいます。それだけ作品に集中し、入り込む体験を重視しているのでしょう。ただ、一方で作品撮影が悪い面ばかりでないということが、最近の悩みとなっていました。

(参考記事:束芋の映像が芝居に!?  7月、東京芸術劇場での 『錆からでた実』を目撃せよ。

そこで今回、そうした状況に向き合い、初めて作品撮影(写真のみ)を許可。鑑賞者も作品の一部として取り込む映像インスタレーションを制作しました。会場となる京都文化博物館・別館は、日本銀行京都支店として辰野金吾が設計した名建築。空間からインスピレーションを得て制作することが多いという束芋が、会場をモチーフにつくった映像により、実際の空間と映像とが一体となります。そこに、携帯電話(インターネット)の中と外を表現するようなイメージが重なることで、バーチャルとリアルがあいまいになる不思議な体験が味わえるでしょう。それは、日常的にネットにつながりながら暮らしている、私たちの状況そのものを反映しているかのようです。

(参考記事:これであなたも日本の写真史を語れる通に!? 「フジフイルム フォトコレクション展」で究極の1枚を目撃せよ。

「京都府新鋭選抜展2017」の招待作家として参加する今回の展覧会。オープニングパフォーマンスとして、束芋が映像、構成、演出を手掛ける新作「網の外」も2日間限定で発表されました。身体的な表現を得意とし、鋭敏な皮膚感覚を持つ束芋が、ネットをめぐる状況にどう反応し、答えを出すのか、目が離せません。


newsweek_20170203_144210.jpg

束芋「網の外」(2017) パフォーマンス作品 イメージ © Tabaimo / courtesy of IMO studio

newsweek_20170203_144247.jpg

束芋「網の中」(2017) 映像インスタレーション作品 スチルイメージ © Tabaimo / courtesy of IMO studio




京都府新鋭選抜展2017-KYOTO ART FOR TOMORROW

開催期間:1月28日(土)~2月12日(日)
開催時間:3階展示室10時~18時(金曜日は19時30分まで) 別館10時~19時30分
3階展示室の入場は閉室の30分前まで
開催場所:京都文化博物館3階展示室、別館
京都市中京区三条高倉
TEL:075-222-0888
休館日:月曜日
入場料:一般¥500、大学生¥400、高校生以下無料。
(別館ホールは無料)

http://www.bunpaku.or.jp/exhi_special_post/shineiten2017/

※会場での撮影は条件付きになります。その条件に関しては会場でご確認いただきます。


出品作家によるギャラリートーク(束芋さんの登場はありません)
日時:2月4日(土)2月11日(土・祝)両日とも13:30~
※事前申し込み不要。ただし当日の入場者に限ります。


※当記事は「Pen Online」からの転載記事です。

Pen Online





今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中