最新記事

<ワールド・ニュース・アトラス/山田敏弘>

歴代トップが犯罪容疑にからむIMFに、高まる改革要求

2017年2月27日(月)17時00分
山田敏弘(ジャーナリスト)

ラガルドは、2011年に前任者が任期途中に辞任をしたことで、IMFトップの座を引き継いでいる。前任者であるドミニク・ストロスカーンは、犯罪行為が疑われて逮捕されたことで、辞任を余儀なくされた。フランスでは将来的には大統領になると見られていたほどの人物だったために、フランス国内でも大きな動揺が広がった。

ストロスカーンの容疑は性的暴行だった。2011年に滞在先のニューヨーク市内のホテルで、IMFトップの職にありながら、従業員に性的暴行を加えたとして逮捕されている。実際に被害者とされる従業員の服からはストロスカーンの体液が発見されたが、ストロスカーンは性的な接触を認め、合意があったと主張した。最終的には、示談で不起訴となっているのだが、彼はニューヨーク市内にあるライカーズ刑務所の塀の中でIMFトップを辞任する意向を手紙にしたためたという。

ラガルドもストロスカーンもフランス人だが、IMFと言えば、これまでの11人の専務理事のうち6人はフランス人だ。その他は、スペイン人のリトや、ドイツ人やオランダ人、ベルギー人、スウェーデン人など。

そもそもなぜIMFのトップは、いつもヨーロッパ諸国の出身者なのか。そのわけは、IMFの専務理事はヨーロッパから選ぶという「紳士協定」が存在するからだ。この紳士協定によれば、IMFの専務理事はヨーロッパから、そして世界銀行の総裁はアメリカから選ばれることになっている。IMFの規約には、専務理事は理事会で指名されるという決まりがあるが国籍についての記述はない。

【参考記事】貿易戦争より怖い「一帯一路」の未来

ただ、さすがにこの協定も時代に合わなくなってきていると指摘されており、ストラスカーンの後任選びの際は、経済規模が大きくなっているブラジルや南アフリカの高官らが、次の専務理事は途上国から選ぶべきだと要求していた。そしてラガルドやリトの有罪判決といった度重なる不祥事で、今後またその要求が再燃する可能性がある。

IMFに関してはヨーロッパの債務危機への見通しと対応について賛否が起きている。また最近特に台頭している、世界的な国際的機関に懐疑的なポピュリストからの批判が高まる可能性もある。特にラガルドに刑を科さないという異例の判決は、なぜ支配層やエリート層は罰せられないのかというポピュリズム(大衆迎合主義)的な批判が強まるきっかけにもなりかねない。

ちなみにIMFの財源はほとんどがクオータ(出資割当額)で賄われている。最も多く支払っているのはアメリカで、次いで日本、中国、ドイツと続く。そう考えれば、透明性が求められる時代に、どんな歴史があろうが、ヨーロッパから専務理事を出すのはもはや無理があるというものだろう。

有罪判決を受ける前に、他に候補者がいなかったために不戦勝で専務理事として2期目を任されることになったラガルドは、よほどのことがない限り今後約4年はトップの座に君臨する。だがその後、IMFが「紳士協定」を捨て、組織として変わることになるかどうかが注目されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米テキサス州洪水の死者43人に、子ども15人犠牲 

ワールド

マスク氏、「アメリカ党」結成と投稿 中間選挙にらみ

ビジネス

アングル:プラダ「炎上」が商機に、インドの伝統的サ

ワールド

イスラエル、カタールに代表団派遣へ ハマスの停戦条
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 8
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    「登頂しない登山」の3つの魅力──この夏、静かな山道…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中