最新記事

中国

貿易戦争より怖い「一帯一路」の未来

2017年1月31日(火)10時00分
ジョシュア・アイゼンマン(テキサス大学オースティン校准教授)、デビン・スチュワート(カーネギー国際問題倫理評議会プログラムディレクター)

 一帯一路は世界の借金国にこれまでにない規模での貸し付けを行う。つまり最も危うい国々に、既に巨額の不良債権を抱える中国の銀行システムが取り込まれることになる。

 貧しい国々は中国の低利ローンを喜んで受け入れ、返済は未来の指導者や国民に任せようとする。ジンバブエ、ベネズエラ、スリランカへの融資は、既に返済不能の兆しがある。

 中国がアフリカで頻繁に債権放棄と追加融資を行ったせいでモラルハザードを招き、多くの国が中国のカネに群がった。だが外貨準備高3兆ドルを誇る中国政府といえども、いつまでも不良債権を帳消しにするわけにはいかない。

 汚職の問題ものしかかる。習は国内の腐敗撲滅を進めているが、一帯一路をきっかけに中国企業が他の企業や現地の受け入れ先とグルになって不正に関わる危険が高まっている。

 中国の国有企業がエネルギーやインフラ事業を行っている一部の地域では既に、地元との不和が生じている。手抜き工事や安全基準の無視、中古や低品質の資材・機器の使用、水力発電用のダム建設や石炭火力発電所などによる環境破壊で非難されている企業もある。

 ラオスとベトナムとカンボジアでは、メコン川の水力発電事業が環境破壊や干ばつの原因になると不満が漏れる。インドネシアでは石炭火力発電所の予算超過や高速鉄道事業の失敗が、ミャンマー(ビルマ)では森林の違法伐採が問題視されている。

 パキスタンでは中国の建設作業員が、分離独立を目指す武装集団に襲撃された。同国では地域勢力の反乱が続いており、中国・パキスタン経済回廊の建設に遅れが出ている。中国共産党対外連絡部の鄭暁松(チョン・シアオソン)副部長は昨年、パキスタンの政党に「一致団結して経済回廊の成功を目指そう」と、異例の呼び掛けを行った。

 中国はパキスタンで安全強化にも努めている。中国政府は運営権を獲得したグワダル港の安全確保のために艦艇を派遣する予定であり、中国船舶工業貿易公司は巡視船2隻をパキスタン海上保安庁に供与した。

 しかし、ありきたりのやり方ではプロジェクトを守ることはできず、中国は今後も近隣諸国の国内問題に巻き込まれる恐れがある。現地で説明責任を果たさなければ、環境悪化や強制退去が地元住民の怒りの火に油を注ぐかもしれない。

【参考記事】「中国がネット検閲回避のVPNを全面禁止」は誤報です

国有企業への押し付け

 一帯一路は中国国内でも大きな経済的・政治的リスクになっている。景気が鈍化し、保護主義への恐怖が高まるなかで、中国政府は一帯一路でリスクの高い途上国に投資する一方、民間資金は安全資産に逃避するという対極的な動きを見せている。

 政府が一帯一路を国有企業に押し付ける一方で、民間投資は安全性の高い国外資産(特にアメリカの不動産)に向かっている。その対抗策として政府は資本規制を強化しているが、抜け道はいくらでもある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ウ代表団、今週会合 和平の枠組み取りまとめ=ゼレ

ビジネス

ECB、利下げ巡る議論は時期尚早=ラトビア中銀総裁

ワールド

香港大規模火災の死者83人に、鎮火は28日夜の見通

ワールド

プーチン氏、和平案「合意の基礎に」 ウ軍撤退なけれ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 9
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 10
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中