最新記事

歴史問題

安倍首相の真珠湾訪問を中国が非難――「南京が先だろう!」

2016年12月28日(水)17時50分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 たとえば「南京大虐殺記念館」は1985年に建立されており、「北京盧溝橋抗日戦争記念館」は1987年に、そして「"九一八"歴史博物館」に至っては、建てられたのが1999年のことだ。

 なぜこんなに遅くなってからなのか?

 その理由は非常に簡単。

 建国の父・毛沢東が、それらの日を記念することを許さなかったからである。

 中国共産党の権威ある「中共中央文献研究室」編集による『毛沢東年譜』(1993年、全9巻)によれば、毛沢東は生きている間、ただの一度も抗日戦争勝利記念日を祝ったことがないし、またただの一度も「南京大虐殺」という言葉を使ったことがない。教科書にも書かせなかった。中国人の証言によれば、文化大革命のときなど、「南京大虐殺」を口にしただけで右派、反革命分子として吊し上げられた経験を持つ人さえいたという。

 だから毛沢東が他界した(1976年)後になって、初めてこれらを口にすることが許されるようになった。

 なぜか?

 それは日中戦争中、毛沢東が日本軍と共謀していたからだ。

 潘漢年(はん・かんねん)という中共スパイを日本側に派遣して、国共合作によって得られた蒋介石・国民党側の軍事情報を高値で日本側に売り渡し、その間に中共軍の拡大を図っていた。できるだけ日本軍と戦わず、やがて日中戦争が終わった後に国民党軍をやっつけて、中共軍を率いる毛沢東が勝利を収めることを狙っていたのだ。日本軍と中国共産党軍との間の部分停戦さえ、申し出ている。実際に部分的停戦が行われた地域があり、中国共産党軍はそのお蔭で急速に拡大していった。

 その間に、日本が戦っていた「中華民国」の蒋介石・国民党軍は、日本との戦いで消耗していった。

 だから、日本軍による中国への進攻を毛沢東は感謝し、建国後、元日本軍等を北京に招聘し、「あなた方、皇軍の進攻がなかったら、私はいまこうして中南海にいることはできません」という趣旨のことを何度も言っている(詳細は『毛沢東 日本軍と共謀した男』)。

 その中国が突然、日本の「侵略行為」を激しく攻撃し始めたのは、1989年6月4日に民主化を求める天安門事件が起き、民主を叫ぶ若者たちを武力で鎮圧した後からだ。特に1991年12月に、世界最大の共産主義国家であった(旧)ソ連が崩壊すると、中国は自国も巻き添えになって一党支配体制が崩壊することを警戒し、1994年から愛国主義教育を始めるようになったからなのである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米シティがコインベースと提携へ、法人顧客向けデジタ

ビジネス

メタプラネット、発行済株式の13.13%・750億

ビジネス

世界のM&A、1─9月は前年比10%増 関税など逆

ビジネス

インフレ基調指標、9月はまちまち 2%台は引き続き
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大ショック...ネットでは「ラッキーでは?」の声
  • 3
    「平均47秒」ヒトの集中力は過去20年で半減以下になっていた...「脳が壊れた」説に専門家の見解は?
  • 4
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 5
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 6
    楽器演奏が「脳の健康」を保つ...高齢期の記憶力維持…
  • 7
    中国のレアアース輸出規制の発動控え、大慌てになっ…
  • 8
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 9
    「死んだゴキブリの上に...」新居に引っ越してきた住…
  • 10
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中