最新記事

インタビュー

AIにできない人間のミッションは、答えのない問いを模索すること

2016年12月9日(金)14時24分
WORKSIGHT

wsKelly_2-3.jpg

イノベーションは時代の必然。発明家は崇敬の対象ではない

――個別の流れは分からないけれども大きな流れは分かるというのが本書のコンセプトですが、大きなビジョンを描くことの価値についてはどうお考えですか。例えば空飛ぶ車を作ろうと夢見たり、不死を目指したりということは、ケリーさんのいう大きな流れに合致していないけれども、こうした大きな夢は我々を前に進めるでしょうか。

ケリー: 生産的な質問です。個人的には、空飛ぶ車よりインターネットの方がずっと素晴らしいと思いますけどね(笑)。

 不可避なものを超えた夢を描く意義があるのか、それとも起こる現実を受け入れるしかないのかという話です。私はエジソンやスティーブ・ジョブズなど英雄的な発明者を礼賛する風潮には違和感を持っています。その人たちが発明していなくても、翌週に別の人が同じものを発明していたでしょう。エジソンが電球を発明したときも、実はそれより前に電球を発明していた人が30人ほどいました。エジソンは具体的な条件を正しく設定したから特許を取得できたのです。時代の流れが新しいものを生み出す環境を作っているということです。

 もちろんビジョンを持つことは重要です。発明者がアイデアを披露し、どういうものを作りたいかを可視化することで望ましい形を考えるきっかけになります。その人の価値感が作ろうとしているものの特性を具体化していくわけです。ただ、その役割を歴史的に見ればマイナーであってメジャーではないと思います。

破壊や失敗を含めて未来を受け入れる

――クリエイティブに携わる人々にメッセージをお願いします。

ケリー: 繰り返しになりますが、決してみなさんは遅れを取っているわけではありません。膨大なチャンスがある時代です。広告もそうです。これから数年、広告において多くの破壊的状況も起きるでしょうが、それを可能性と見るべきです。

 そして、この破壊を受け入れることです。失敗も受容するのです。我々の目の前でさまざまな変化が起きつつあります。その変化は新しい可能性を開きます。誰かがそれをとらえるのです。あなたでなければ別の人がするでしょう。でも、あなたにチャンスがあるのですから、あなたがそれをやるべきです。その先には素晴らしい機会、富があります。対価として失敗もあるでしょうが、だからこそ、その失敗も引き受けなければならないのです。

 このテクノロジーを受け入れてください。受け入れて初めて運営することができます。AIもVRも到来するのだから使ってみるのです。使うことによってのみ、それが何に役立つかが分かります。

 それは未来を受け入れるということです。そのために私の本が少し役に立つかもしれません。みなさんは社会で大きな違いを生み得る方々なのですから。

WEB限定コンテンツ
(2016.7.22 港区の電通ホールにて取材)

text: Yoshie Kaneko
photo: Kei Katagiri

wsKelly_site1.jpgケヴィン・ケリー氏のウェブサイト。オンラインに投稿した記事やインタビュー記事が閲覧できるほか、テーマごとに体系化されたブログやウェブサイトなどもまとめられている。
http://kk.org/

* レイ・カーツワイル
アメリカの発明家、思想家、フューチャリスト。『シンギュラリティは近い――人類が生命を超越するとき』『ポスト・ヒューマン誕生――コンピューターが人類の知性を超えるとき』(ともにNHK出版)など、シンギュラリティやAIに関する著書も多い。

wsKelly_portrait.jpgケヴィン・ケリー(Kevin Kelly)
1952年生まれ。著述家、編集者。1984~90年までホール・アース・カタログやホール・アース・レビューの発行編集を行い、93年に雑誌WIREDを創刊。99年まで編集長を務めるなど、サイバーカルチャーの論客として活躍してきた。現在はニューヨーク・タイムズ、エコノミスト、サイエンス、タイム、WSJなどで執筆するほか、WIRED誌の"Senior Maverick"も務める。著書に『ニューエコノミー 勝者の条件』(ダイヤモンド社)、『「複雑系」を超えて――システムを永久進化させる9つの法則』(アスキー)、『テクニウム――テクノロジーはどこへ向かうのか?』(みすず書房)など多数。

※当記事はWORKSIGHTの提供記事です
wslogo200.jpg


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中