最新記事

インタビュー

AIにできない人間のミッションは、答えのない問いを模索すること

2016年12月9日(金)14時24分
WORKSIGHT

wsKelly_2-2.jpg

この質疑応答は、聞き手を廣田周作氏(電通ビジネスクリエイションセンター、COTAS編集長/写真左)、司会を松島倫明氏(NHK出版編集長)が務めた。

生産的な問いができるかどうかでクリエイターの価値が決まる

――あなたがそうするんだという、受け手に対する問いかけがコミュニケーションとして重要ということですね。一方で、テクノロジーは人間とは何かという再定義を迫るものだという主張が本の中で随所になされています。効率が重視される仕事をテクノロジーが肩代わりしていく中で、クリエイターのミッションはどのように再定義されるでしょうか。

ケリー: 将来におけるクリエイティビティは驚くべきものになるでしょう。人間特有の能力ではなくなると思います。

 アルファ碁が韓国のプロ囲碁棋士であるイ・セドルと対戦したとき、人間を上回るクリエイティブな手を打って世間を驚かせました。トレーニングすることでコンピュータにクリエイティビティを発揮させるのは可能なのです。また、新しいシステムを作ってより高次のクリエイティビティを持たせることもできます。音楽やアートなどではすでに行っていますが、自律的に創作活動するようにプログラミングするのです。モーツァルトのスタイルで作曲するコンピュータの作った楽曲は、専門家もそれと区別できないレベルです。

 多くのクリエイターはガーデナーのような存在になるかもしれません。まずプロセスを作り、それから生成していく。直接クリエイトするのではなくて、ものを作るシステムを構築することで間接的にクリエイティブに関わるということです。

 となると、我々人間に残されるクリエイティブなこととは何か。それは質問することです。クリエイティブの基礎にあるのは、これはできるのか、やったらどうなるかというような探索的なスキルです。決まった答えがあるときは機械に聞けばいい。人が得意とするのは、自由回答の形で好奇心からするような質問です。考えても答えが分からない、迷っているような領域を探求することです。

 質問することの方が答えを出すより価値があるのです。答えはAIがくれますからね。今後、クリエイティブの仕事は生産的な質問ができるかどうかが問われてくると思います。

進化したAIと共存する未来では、人間のアイデンティティが揺らいでいく

――AIが電気のように世の中に普及していくということは目新しいものでなくなるということ。人間とAIが協働する未来は、あまりワクワクするようなものではないのでしょうか。

ケリー: その通りです。未来のテクノロジーは退屈でつまらないものになるかもしれません。それについてもう意識をしないということは成功しているということです。

 第一次産業革命では、工場で使われているような巨大なモーターが小型化して家庭用に普及していきました。今はいくつもの小さなモーターが家庭のあちこちの家電に埋め込まれ、我々はその存在を全く意識していません。AIも同じで、見えなくなることが成功の証です。意識しない存在になる可能性が高いでしょう。

 もう1つ言えることとしては、AIと共存する社会になると人間のアイデンティティが変わってくると思います。先ほどのクリエイティブの話のように、人間こそクリエイティブだと思っていたのに、マシンの方がクリエイティブだとしたら、我々のクリエイティビティが問い直されることになるわけです。テクノロジーの進化は、我々は何か、何のためにここにいるのかを考え直すことを迫るのです。

 それは人間にとって不安な状況です。その不安感を和らげるためのテクノロジーが重要ですし、またこうした消費者のマインドの変化は広告の大きなニーズになると思います。みんながそれを問いかけ、答えを求めるようになるので、チャンスとしては奥行きが見込まれるのではないでしょうか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

香港大規模火災、死者159人・不明31人 修繕住宅

ビジネス

ECB、イタリアに金準備巡る予算修正案の再考を要請

ビジネス

トルコCPI、11月は前年比+31.07% 予想下

ワールド

プーチン氏、一部の米提案は受け入れ 協議継続意向=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 3
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 4
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 8
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 9
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 10
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中