最新記事

インタビュー

今がベストなタイミング、AIは電気と同じような存在になる

2016年12月8日(木)16時30分
WORKSIGHT

wsKelly_1-7.jpg

AIを使った生体データのトラッキングのイメージ。

監視が強化される社会では情報の非対称化が起こる

 不可避の流れの重要な要素の3つ目は「TRACKING」、追跡です。我々の生活は我々が思っている以上に監視され、モニタリングされ、そしてデジタル化されています。将来はさらにこれが高まっていくでしょう。

 先ほど話したバーチャルな環境は、追跡あるいは監視される対象の最たるものといえます。VRを実現するためには体や表情の動きをデータでとらえなければいけません。データ化されたものは追跡しやすいのです。VRの世界は最も監視度の高い世界となることは認識しておくべきです。

 そして我々もまた自分自身を追跡しています。私は「Quantified Self」(定量化された自己)* というムーブメントを2007年に起こしました。脳波、睡眠の内容、気分、皮膚の反応など、さまざまな項目で自分たちの体の変化を継続的に監視して、個別化医療に役立てるのです。最近はアップルウォッチでも同じようなことができるようになりました。

 自分が自分を追跡するばかりではありません。政府や企業、そして友人など、みんながみんなを追跡することになるでしょう。すでにフェイスブックは手軽な追跡手段となっています。こうした追跡があふれていくのは怖いことです。彼らは私について知っているかもしれないけれど、私は彼らを知らない。どういった情報を追跡されているか分からない。それが正確な情報かも分からない。不正確だったとしても訂正できない。その情報の利用に関して彼らに説明責任を持たせることができない。つまり情報の非対称化が起こるわけです。非常に不快ではあるものの、この流れは避けられません。

 ではどういうトラッキングがいいのか。私が提案するのは「Co-veillance」、相互監視です。情報を対称にするのです。誰かが追跡してきたならば自分もその人を追跡できるという双方向性があるべきです。技術的には可能ですが、実現するには我々が声を上げていかなければなりません。

 もう1つこれに関連していうならば、なぜ我々が互いをトラッキングしているかというと、個別化された待遇をしてほしいからです。プライバシー重視とオープン志向は相反しつつ連動するもので、「個別化医療を受けたい」「政府から個別化された処遇を受けたい」「友人から特別視されたい」といった場合は、まず自分から情報を公開して透明性を高めなければなりませんし、プライバシーがほしい場合は"その他大勢"として一般的な扱いを受けざるを得ません。若い世代は個別化待遇される方を選んでいます。だからSNSなどで自らの情報をさらけ出すのです。虚栄心がプライバシーに打ち勝つということなのでしょうが、両軸の間をバランスする選択肢もあってしかるべきだと思います。

今はまだ変化の初めに過ぎない

 ここでは3つのトレンドについて話しましたが、テクノロジーがもたらす不可避の変化は多方面に渡ります。

 中には信じがたい方向性もあるでしょう。しかし、30年前にタイムマシンで戻って、当時の人々に今の状況を説明したとしたらどうでしょう? スパコンが膨大で複雑な計算を瞬時にやってのけ、リアルタイムで株価が報告され、ウィキペディアのような世界中の人々が作る辞書が無償で利用できる。そんな現実はにわかには受け入れてもらえないはずです。

 しかし、これらは今すべて現実です。ありえないと思っていることも実現するのがコンピュータの世界なのです。我々も柔軟性をもって、実現不可能と思える未来であろうと信じなければなりません。

 今は変化のまだ初めに過ぎません。今ほど何か作るのに適した時期はないのです。過去を振り返ってみると、いろいろなものを作るツールが最も安く、アクセスしやすく、マーケティングにも最適なタイミングです。

 未来を見据えても、今がことを起こすベストのタイミングです。AIやVRの世界が拡大していくことを考えると、今ある機会はかつてなく大きいのです。「X+AI」でいいのです。30年後は多くのことがなされてしまっていますから、今は何でもXを取ってAIに加えてやればいい。誰でもAIやVRのエキスパートになれる時なんです。

 20年先から振り返るならば、「20年前はチャンスが山のようにあった、この素晴らしい時期はもう二度と再現されることはない」と思えるでしょう。最もパワフルで、これから20年支配的な存在となる製品は存在するどころか、まだ発明さえされていないのです。それは誰かが発明しなければなりません。何をするにも決して遅過ぎることはないのです。

WEB限定コンテンツ
(2016.7.22 港区の電通ホールにて取材)

text: Yoshie Kaneko
photo: Kei Katagiri

※インタビュー後編:AIにできない人間のミッションは、答えのない問いを模索すること

wsKelly_site1.jpgケヴィン・ケリー氏のウェブサイト。オンラインに投稿した記事やインタビュー記事が閲覧できるほか、テーマごとに体系化されたブログやウェブサイトなどもまとめられている。
http://kk.org/

ケリー氏の新著『〈インターネット〉の次に来るもの――未来を決める12の法則』(服部桂訳、NHK出版)。原題は「不可避」を表す『THE INEVITABLE』。刊行直後からAmazonのランキングで上位につけるなど注目度は高い。

wsKelly_site2.jpg* 「Quantified Self」のウェブサイト。http://quantifiedself.com/
東京のメンバーが立ち上げたサイト「Quantified Self Tokyo」もある。http://qs-tokyo.com/

wsKelly_portrait.jpgケヴィン・ケリー(Kevin Kelly)
1952年生まれ。著述家、編集者。1984~90年までホール・アース・カタログやホール・アース・レビューの発行編集を行い、93年に雑誌WIREDを創刊。99年まで編集長を務めるなど、サイバーカルチャーの論客として活躍してきた。現在はニューヨーク・タイムズ、エコノミスト、サイエンス、タイム、WSJなどで執筆するほか、WIRED誌の"Senior Maverick"も務める。著書に『ニューエコノミー 勝者の条件』(ダイヤモンド社)、『「複雑系」を超えて――システムを永久進化させる9つの法則』(アスキー)、『テクニウム――テクノロジーはどこへ向かうのか?』(みすず書房)など多数。

※当記事はWORKSIGHTの提供記事です
wslogo200.jpg


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

サハリン2はエネルギー安保上重要、供給確保支障ない

ワールド

シンガポールGDP、第3四半期は前年比5.4%増に

ビジネス

伊藤忠、西松建設の筆頭株主に 株式買い増しで

ビジネス

英消費者信頼感、11月は3カ月ぶり高水準 消費意欲
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中