最新記事

インタビュー

今がベストなタイミング、AIは電気と同じような存在になる

2016年12月8日(木)16時30分
WORKSIGHT

wsKelly_1-5.jpg

人間とAIが一体となって協働する状態は半身半馬のケンタウルスにたとえることができる。

 チェスの世界チャンピオンだったガルリ・カスパロフはIBMのAI「ディープ・ブルー」に敗れたとき、自分がAIと同じようにビッグデータにアクセスして、取りうる手を全てリアルタイムでシミュレーションできていれば勝てたと考えました。そしてAIと人間が協力して戦う新しいチェスリーグを始めました。彼はそのチームを「ケンタウルス」と呼びました。AIと人間の融合を、神話上の半身半馬の生きものになぞらえたわけです。今日、世界でベストのチェスのプレイヤーはAIでもなければ人間でもない、このケンタウルスです。

 これは今後のモデルになるでしょう。ベストな医学の診断者は「人間の医師+AI」なのです。これは人間とロボットが隣り合わせで作業するということです。AIと人間の知性が補完的な関係にあるからこそできることであり、一緒になれば双方がより賢くなるということです。仕事の報酬も、AIとどのくらいうまく協力できるかによって決まることになるでしょう。

AIとの相互作用が高まり、現実と仮想空間が融合していく

 今後の不可避な流れについて、2番目に重要なトレンドとして挙げられるのが「INTERACTING」、相互作用が高まるということです。

 いろいろな形でいろいろな装置とのインタラクションが要求されるようになります。『マイノリティ・リポート』や『アイアンマン』などの近未来を描いた映画では、指先だけでなく全身でコンピュータとコミュニケーションするさまが表現されています。

 また、我々がコンピュータの中に入り込むバーチャルリアリティ(VR)もインタラクションの一例です。発明当初は費用がかかることが課題でしたが、最近はスマートフォンを使うことでコストが下がってきました。

 VRにはタイプがいくつかあって、1つはゴーグルで体験するものです。これは自分があたかも別の場所にいるように感じることができます。実際は部屋の中にいるのに、まるで崖っぷちにいるようで、恐怖で体が震えるほどです。

 メガネで体験するタイプもあります。メガネをかけて周りを見渡すと、その空間の中に実際にはないものが浮かび上がるのです。これはMR(Mixed Reality)、複合現実と呼ばれます。現実世界と仮想世界を混ぜるからです。技術的にはまだおぼつかない段階ですが、急速に進歩していくと見込まれます。ゴーグルは使いませんが、「ポケモンGO」はデジタルと物理的な世界を結びつけた好例といえるでしょう。

 VRにはもう1つ、安価なムービータイプがあります。頭の向きを変えることで回転が感じられるものもあり、これは技術的難易度が低めですが、VRの醍醐味を味わうには部屋を自由に歩いて好きなものを見られるようなものがいいですね。実現の敷居は高いですが、目指す方向はこちらでしょう。

VRが今後の社交の場の中心になる

 VRは新たなインターネットです。ニュースやドキュメント、写真、動画といった「情報」から、実際に感じることができる「経験」へのシフトです。経験を買う、あるいはダウンロードする、共有するといったさまざまな受け取り方が考えられます。

 退屈な時にスリリングな経験を得るだけでなく、病気のとき誰かがそばにいてくれているような安心感や、商品のデモンストレーションを目の前で見られるような利便性もそこにはある。つまり、「経験の経済」「経験のインターネット」が到来するということです。そこでは50%以上が視覚情報以外に頼っています。聴覚、触覚情報が今後重視されるということです。

 とはいえ、バーチャルな世界における最も重要で最もワクワクする要素は人と遭遇することです。マイクロソフトがMRによるデモンストレーションを行ったときは、そこにいない人を3Dで浮かび上がらせて見せました。髪やまつげ、服の生地の風合いまで見ることができて、非常にリアルで存在感がありました。

 仕事で電話会議をするときも、こうした新しいテクノロジーを使えば驚くべき結果が生まれるのではないでしょうか。スクリーンの向こうにいるのが漫画のキャラクターのようなアバターだとしても、表情やしぐさは本人のものをそっくりそのまま反映しています。アイコンタクトまでしてくれるのです。見つめる要素が合わさると、見ている対象がアバターでもその人が本当にそこにいると思います。VRはソーシャルメディアの中でソーシャルになる、VRが最も活発な社交の場になるということです。

wsKelly_1-6.jpg

マイクロソフトによるMRのデモンストレーションの様子。ホロレンズを使っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中