最新記事

米政治

ゴルフ場に墓石を使うトランプは中国と似ている

2016年11月25日(金)18時48分
譚璐美(作家、慶應義塾大学文学部訪問教授)

 もっとも、2012年に発生した米中間の政治事件「陳光誠事件」は、オバマ政権の国務長官に就任したヒラリーの強面の一面も示した。ヒラリー・クリントン国務長官がたまたま訪中した折に遭遇したこの事件で、彼女は中国国内で軟禁状態にあった盲目の人権活動家・陳光誠氏をアメリカ大使館内に保護し、外交取引の末に、ユナイテッド航空をチャーターして、彼を家族ともどもアメリカへ避難させたのだ。中国政府にとっては苦々しい記憶だ。

 今回、もしヒラリー候補が大統領選で勝利していたら、中国にとっては「金に執着心の強い、傲慢不遜な相手」と映り、今後の米中関係は硬化していたかもしれない。

中国では墓地をつぶす例が後を絶たない

 では、トランプ候補のほうは、中国の目にどう映っていたのだろうか。

 アメリカでも選挙期間中に物議をかもしたように、トランプ候補が清廉潔白であるというわけではない。数々の企業を経営するトランプ氏が、あの手この手で節税対策を講じて税金逃れをし、あるいはまったく税金を払っていなかったと報じる新聞もあった。

 中国にとって、ビジネスで大成功したトランプ氏が、これまで培ったビジネス感覚を発揮して、政治の分野でも「利益重視」の姿勢で国家政策を決断してくれるならば、こんなに「与しやすい相手」もいないだろう。経済大国・中国にとっても「儲け話」は共通目的で、たとえ利害が対立しても、トランプ氏の思考パターンが読みやすく、対処法も簡単にみつかるからである。

【参考記事】辛口風刺画・中国的本音:「中国の夢」vs「アメリカの夢」の勝者は?

 それにしても、選挙戦の直後、私はふと思い出した。2年前に見たトランプ氏のテレビ番組である。トランプ氏が、自分の所有するゴルフ場を案内しつつ、満面の笑みをたたえて、こう説明したのである。

「この石段を見てくれ。なんだと思う? 実は、これは墓石なんだ。もとは墓場だったからね!」

 他人の意表をつくことばかり好んで口にするトランプ氏の言葉に、居合わせた人たちは一様に押し黙った。

「不遜」とも「傲慢」とも感じられるトランプ氏の所業だが、よく考えてみれば、墓地をつぶして、別のものを作ろうという思考方法は、中国と共通している。

 経済発展著しい中国では、地方政府の肝いりで、全国の農村で工場団地を作るために農地を没収し、墓地をつぶす例が後を絶たない。土地をならし、墓石を"再利用"して石畳の道を作ったり、工場の建物の礎石にしたりするのである。かつて土葬であった土地柄ならば、遺体はコンクリートとない混ぜになり、地中深く埋没させられてしまったはずである。

 トランプ氏は図太い神経の持ち主として、モラルの欠如など笑い飛ばす人間である点で、中国とよく似ているのである。今後、アメリカは中国と意気投合するか、あるいは激しく反発し合うかだが、議論百出した末に、最終的には利益を共有するような打開策を講じることになるだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米テキサス州洪水の死者43人に、子ども15人犠牲 

ワールド

マスク氏、「アメリカ党」結成と投稿 中間選挙にらみ

ビジネス

アングル:プラダ「炎上」が商機に、インドの伝統的サ

ワールド

イスラエル、カタールに代表団派遣へ ハマスの停戦条
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 8
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    「登頂しない登山」の3つの魅力──この夏、静かな山道…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中