最新記事

ロシア

プーチンをヨーロッパ人と思ったら大間違い

2016年10月7日(金)18時14分
アンドリュー・コーンブルース(米大西洋協議会)

 アメリカやヨーロッパの極右主義者がプーチンを称賛するのは、、単に彼が反自由主義的で自分たちの政治的な運動に都合が良いという理由だけではない。彼らはプーチンを、肉食系で強力で希有な「ヨーロッパの」指導者だと見ているのだ。

 現代ロシアを動かすレバンチズム(報復主義)とノスタルジアの奇妙な組み合わせを理解できている国は、ヨーロッパの中でも数カ国に過ぎない。ロシアの支配指導層をはじめ国民の大多数は、ソ連崩壊によって失われた自尊心を取り戻そうと決意している。ロシア人の目には、西側が提唱する民主主義や人権といった概念が脅威に映る。旧ソ連の衰退や生活水準が破滅的に悪化したボリス・エリツィン政権下の暮らしを連想するからだ。

人間の犠牲は顧みない

 ロシアでは近代化を目指して大改革を行った17~18世紀のピョートル1世の時代から第2次世界大戦に至るまで、国家のあらゆる変革に国民が強制動員されてきた歴史がある。それゆえ個人の犠牲は、それがロシア国内の孤児であろうとや、ロシア国境近くで撃墜されたマレーシア航空機に搭乗していた犠牲者たちであろうと、あるいはシリアのアレッポで殺される子どもたちであろうと、ほとんど注目に値しない。

【参考記事】マレーシア航空機撃墜の「犯行」を否定するクレムリンのプロパガンダ

 ロシアという国と同様、複雑怪奇なプーチンに匹敵する西側の指導者は存在しない。彼は高慢で秘密主義の「警察官」であり、自国では誠実な人間の象徴として通るベテランの詐欺師、そして多民族のロシア帝国を統括するナショナリストだ。

 皮肉なのは、西側がロシアの上に自らを重ねて見ているのと同時に、プーチンとその支持者たちも西側指導者に自分自身を見ていることだ。彼らにとっては譲歩以外のどんな答えも偽りだ。ロシアを屈服させるという目的を隠す煙幕に過ぎない。彼ら中では、誠実さは策であり、すべてはイデオロギーで、政治とはすべてゼロサムゲームだ。がまだ言葉を信じるの西側とは対照的に、ロシアは行動にしか反応しない。ウクライナ紛争でも、唯一効果をもったのは経済制裁だけだ。

 しかし、ロシアの孤立主義を放っておくわけにもいかない。繁栄するロシアはすべての人の利益になる。ロシアと交渉する役目を担う代表たちは、心からの訴えや協力への誘い、お世辞などがすべて無視される屈辱と困惑を覚悟したほうがいい。

This article first appeared on the Atlantic Council site.

Andrew Kornbluth, a UkraineAlert contributor, holds a PhD in history from the University of California, Berkeley.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    注目を集めた「ロサンゼルス山火事」映像...空に広が…
  • 10
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中