最新記事

自動車

テスラが繰り出す強気の安全対策

2016年10月4日(火)11時00分
ウィル・オリマス

Bloomberg/GETTY IMAGES

<5月の死亡事故で安全性に付いた疑問符。問題解決と信頼回復を目指して、テスラは「異次元」の一手を見せるが>(写真はロンドンのショールームに展示されるテスラの自動運転車)

 テスラモーターズが解決策を見つけたようだ。しかも、いかにもテスラなやり方で――。

 今年5月、自動運転支援機能「オートパイロット」を搭載した同社のセダン「モデルS」がトラックと衝突し、ドライバーが死亡する事故がフロリダ州で起きた。問題を受け、イーロン・マスクCEOは9月中旬、オートパイロットを刷新するソフトウエア更新を発表した。

 幹線道路での自律走行を可能にするテスラのシステムはこれまで、主にカメラと画像処理ソフトで前方の障害物などを検知していた。データを補完するためにレーダーや超音波センサーも併用していたが、レーダーの情報のみに従って機能する仕組みにはなっていなかった。

 今回の更新で大きく変わったのはその点だ。新たなレーダー信号処理法と、自動運転中の各テスラ車から走行データを収集し、自ら学習・改善する「フリートラーニング」機能のおかげで、今後はレーダーがカメラと並ぶ主要な情報源になる。最新ソフト「バージョン8・0」は1~2週間以内に、世界中の対象車に自動的にインストールされると、マスクは語った。

 今後は安全性が大幅に向上するというマスクの言葉が正しいなら、テスラの自動運転テクノロジーは転換点を迎えたと言えそうだ。しかも無線通信経由でソフトを自動更新するのは、自動車業界で初の試み。テスラは、ライバルとは別次元にいることを思い知らせてくれる。

【参考記事】死亡事故のテスラは自動運転車ではなかった

 とはいえマスクも認めるように、幹線道路での自律走行の安全性を保証するのは難しい。レーダーを中心に据えるテスラの新たなアプローチにも、それなりのリスクがある。

 自動運転車に懐疑的な人々に言わせれば、フロリダ州でのテスラ車の死亡事故は安全性への懸念が現実になった瞬間だった。

 問題のモデルSはオートパイロットで走行中、前方を横切ったトラックと衝突。自動運転モードでは、前方に物体が検知された場合にブレーキが作動する仕組みになっているが、日光のせいでトラックの車体と道路標識を混同したとみられている。

 運転を担当するのがコンピューターではなく人間なら、こんな間違いは決して起こらないだろう。この事故はテスラの評判だけでなく、自動運転車の将来性をも損なう事例として大きく取り上げられた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英EU離脱は貿易障壁の悪影響を世界に示す警告=英中

ワールド

香港国際空港で貨物機が海に滑落、地上の2人死亡報道

ビジネス

ECB、追加利下げの可能性低下=ベルギー中銀総裁

ビジネス

日経平均は反発で寄り付く、政局不透明感後退で 幅広
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「実は避けるべき」一品とは?
  • 4
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心…
  • 5
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 6
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みん…
  • 7
    自重筋トレの王者「マッスルアップ」とは?...瞬発力…
  • 8
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 9
    「中国は危険」から「中国かっこいい」へ──ベトナム…
  • 10
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 7
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 8
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 9
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 10
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中