東京五輪まであと4年、「民泊」ルールはどうする?
こうした民泊特区のルールを受けて、今年1月、羽田空港のお膝元である大田区で独自に制定された「国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業に関する条例」(大田区民泊条例)がスタートした。
この条例は「6泊7日」という宿泊期間の条件は維持した上で、大田区側が民泊施設に対し、質問や立ち入り検査を実施できる権限を確保したものである(ただし、拒否しても罰則がない模様)。さらに、周辺住民に向けて事業計画を説明する義務も民泊業者に課した。
そもそも、6泊以上という基準も実態に合わず、民泊普及の妨げになるとの指摘もある。「Airbnb」によれば、同サイトの訪日外国人利用者の平均宿泊数は約3.8泊だという。
本音では民泊を違法状態のままにしておきたい?
たしかに、既存のホテルや旅館が客を奪われないよう、民泊は長期宿泊者のみを対象としておくことで、棲み分けを講じたい事情は理解できる。
だが、ホテルの新規建設が五輪開催までに間に合いそうもないから民泊を促進するのなら、むしろ宿泊業と民泊との「協同」をこそ目指すべきようにも思える。今後、外国人観光客がどれほど増加するかを見込みながら、基準を緩和する方向性も検討していかなければ、受け入れ態勢は整わない。
その一方で、新宿区や目黒区では、すでに民泊のルールに関する条例化が断念されている実態もある。台東区では、部屋の広さにかかわらず「フロントの設置」を義務づけ、民泊に対する事実上の規制強化を行った。
たくさんの人が日本に来てくれるのは嬉しい。日本の良さを知ってほしい。五輪特需の恩恵にもあずかりたい。だが、外国人が地元に押し寄せることに対しては警戒している。そのような建前と本音に引き裂かれた感覚が見え隠れする。それぞれの自治体は、誰がどこに滞在しているか把握しきれず、何に悪用されるかわからない民泊なんて、下手に認めたくないのである。この切なる願いは当然のもので、大変理解できる。
その点、民泊を違法状態のままにしておけば、トラブルを起こした業者、なんとなく怪しい業者だけをピンポイントで摘発し、それ以外を見て見ぬふりして、しばらく様子をうかがうなどの「柔軟な運用」も可能となる。
民泊を公式に認めなければ、仮に何らかのトラブルが起きても、自分たちの責任ではないと切り捨てることができる。だから、民泊に対して、しっかりした基準など設けたくない。それが国や自治体の本音なのかもしれない。
2020年に向けて、外国人観光客の受け入れ態勢は、少なくとも表向きには整っていない。このまま進めば、東京オリンピック・パラリンピックの開催には「違法状態の民泊」が不可欠といっても過言ではないだろう。
【参考記事】東京五輪まであと4年、「受動喫煙防止」ルールはどうする?
[筆者]
長嶺超輝(ながみね・まさき)
ライター。法律や裁判などについてわかりやすく書くことを得意とする。1975年、長崎生まれ。3歳から熊本で育つ。九州大学法学部卒業後、弁護士を目指すも、司法試験に7年連続で不合格を喫した。2007年に刊行し、30万部超のベストセラーとなった『裁判官の爆笑お言葉集』(幻冬舎新書)の他、著書11冊。最新刊に『東京ガールズ選挙(エレクション)――こじらせ系女子高生が生徒会長を目指したら』(ユーキャン・自由国民社)。ブログ「Theみねラル!」