最新記事

法からのぞく日本社会

東京五輪まであと4年、「民泊」ルールはどうする?

2016年9月5日(月)17時15分
長嶺超輝(ライター)

 しかし、加えて注意すべき点がある。営業目的で不特定の様々な人を部屋に泊まらせる民泊は「旅館業」に該当するからだ。そのため、民泊は旅館業法の適用を受ける。たとえ個人的に民泊を行う場合であっても、旅館業法の「簡易宿所」にあたり、自治体の知事や市長、区長の許可が必要となる。

 さらに、

●宿泊者名簿の備え付け
●宿泊拒否の原則禁止
●浴室・トイレ・洗面所の設置
●広さ33平方メートル以上
●営業者による清掃義務
●適当な換気、採光、照明、防湿、排水設備の設置

 などの基準を守ることが義務づけられる。この旅館業法に違反すれば、逮捕されることもありうる。懲役や罰金の刑が科される場合もある。

 自分の所有物をどう使おうが自由なのが原則で、たしかに所有権は絶対なのだが、あくまでも「法令の制限内において」(民法206条)の絶対なのである。また、たとえ大家の承諾をとった上で賃貸物件を民泊に使っているとしても、旅館業法の条件を満たさなければ、結局は違反となる。つまり、持ち家であれ賃貸物件であれ、民泊は旅館業法とは無縁ではいられない。

 宿泊者の衛生の確保、身元を確認することによる治安確保、近隣トラブルの防止などを考えれば、旅館業法は確かに必要な規制である。ただ、個人が民泊を行うために乗り越えるべきハードルとしては「やりすぎ」なのかもしれない。あまり厳しい基準を設けては、客室不足の解消には繋がらない。

民泊特区がスタートしたが、なお基準は厳しい

 実際、インターネット上で個人間の民泊を仲介する「Airbnb(エアビーアンドビー)」などのサイトでは、旅館業としての許可を最初から取らない違法状態の民泊物件で、ほぼ埋め尽くされている状態だと思われる。

「Airbnb」などは、あくまで個人同士のやりとりを仲介する立場であって、「合法な民泊のために必要な許認可は、各自でとってください。そのために必要な情報は自分で探してください。あとは自己責任でよろしく」というスタンスを貫く。

【参考記事】Airbnbが家を建てた――日本の地域再生のために

 近年、国は旅館業法の「簡易宿所」の条件を緩和し、宿泊者数が10人に満たなければ、部屋の広さは「3.3×人数」平方メートル以上でOKとした。たしかに、居室の面積についての要件はかなり緩やかになった(風呂トイレ付きの33平方メートルに10人泊まれば、ほぼ雑魚寝の状態だろうけども)が、他の厳しい基準は残っているので「焼け石に水」のような感はぬぐえない。

 そこで、国家戦略特別区域法13条が「外国人滞在施設経営事業」の特区を定め、東京都内などの一定範囲内で行われる民泊を、旅館業法の例外とするよう規定している。

 とはいえ、この民泊特区の基準もなお厳しい。「6泊7日以上」「25平方メートル以上」「それぞれの居室に台所・バス・トイレ」といった、旅館業法とは別の制約が課されているからだ。つまり、一戸建てやマンションの1室のみを民泊に提供することが、事実上できなくなっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中