最新記事

スポーツ

インドはなぜ五輪で勝てない?

2016年9月2日(金)16時40分
アキレシュ・ピララマリ

magc160902-02.jpg

男子レスリングの金メダル獲得を祈る集い Ajai Berma-REUTERS

 中国と違って、インドにはスポーツで欧米諸国を打ち負かし、植民地支配の屈辱を晴らしたいというエネルギーが欠けているという問題もあるようだ。

 インドオリンピック委員会の関係者さえ、五輪は異国で長期バカンスを取る口実と考えている。多額の予算が、彼らのビジネスクラスの飛行機代に消えることは少なくない。その一方で、選手をサポートするための支出は後回しにされている。

 オンライン誌クオーツ(インド版)によると、カルマカルは当初、リオ五輪に「理学療法士の帯同を認められなかった」という。「インドスポーツ局(SAI)が『無駄』と判断したためだ。しかしカルマカルが歴史的な決勝進出を決めると、慌てて理学療法士がブラジルに呼び寄せられた」

 4年後の東京五輪でもっと多くのメダルを獲得したいなら、インドは現在の強みを生かして、女子選手の重点的強化に乗り出すべきだ。インド当局の怠慢と、社会的偏見を乗り越える能力とガッツがある女子選手は、男子選手よりもオリンピックレベルのスキルを身に付けられる可能性が高い。

 特権的な待遇を重視したり、やたらとベテラン選手をちやほやする風潮に終止符を打つ必要もある。リオ五輪前に最もメディアの注目を浴び、最も多くの助成金を受けたのはベテラン選手ばかり。知名度が低い若手選手(メダル獲得者を含む)へのサポートは乏しかった。

 ベテラン選手は実績はあっても比較的年齢が高く、エゴも強いことが多い。リオでもインド代表のテニス選手たちは非常に仲が悪く、ダブルスを組ませると、あっけなく敗退した。

【参考記事】改めて今、福原愛が中国人に愛されている理由を分析する

 しかし何より重要なのは、スポーツ文化と呼ぶべきものを育てることだろう。第一歩は、学校やスポーツ施設への投資拡大だ。所得層や地方に合ったスポーツ振興も有効だろう。例えばハリヤナ州では伝統的にレスリングが盛んで、過去の五輪選手のほとんどがこの地方出身だ。

 文化的、制度的、食生活などの理由から、インド人に合った種目に集中的に投資することも重要だ。ホッケーとレスリングを別にすれば、インド人は一般に、優れた敏しょう性、柔軟性、集中力が要求される種目(バドミントン、射撃、体操など)が得意。これらの種目では、チーム競技や相手と激しく接触する種目よりも多くのメダルを獲得してきた。

 人口が13億人を超えるインドは、それなりの数のメダルを獲得できるはずだ。根本的な問題は分かっている。必要なのは、具体的な行動だ。

 ナレンドラ・モディ首相は、衛生など従来タブー視されてきた問題に光を当ててきた。今度はスポーツに光を当てる番だ。

From thediplomat.com

[2016年9月 6日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中