最新記事

EUの新著作権法がもたらす「閉じたインターネット」

2016年9月23日(金)16時00分
Rio Nishiyama

オンライン動画プラットフォームの著作権侵害への責任強化

 現在、YoutubeやFacebookといった動画をホスティングするサービスは、著作権侵害の訴えが著作者側からあった場合にのみ、当該動画を削除している(ノーティス・アンド・テイクダウン方式)。あたらしく提唱されたEU法では、ホスティングプラットフォームの責任が強化され、ユーザーがアップしたすべての動画が著作権侵害していないかをチェックし、著作者から訴えられる前に動画を削除するクローリングの機能をつけることが求められている。

 ちなみに、コンテンツIDをつかったこのクローリングの機能は、すでにYoutubeでは実装されているのだが、二次創作やレビュー動画、ホームビデオ...といった、ファンがつくった罪のない動画まで自動的に消してしまうことがたびたびあり、問題視されている。

 この機能をほかのすべての動画ホスティングサービスがつけなければならないとしたらどうだろうか? たとえばSoundCloudなどは、まだ広く知られていないアーティストが作品を発表し、人気を得るきっかけをつくる場所となっている。ここで、アルゴリズムによって「著作権を侵害したとみなされた」すべてのコンテンツが自動的に消されることになれば、創作活動の萎縮につながってしまう。また、このような厳しい規制によってイノベーティブなあたらしい動画ホスティングサービスが生まれにくくなり、結果としてすでにコンテンツID形式を採用しているYoutubeの独占市場が続くことになるだろう。

 このほかにも、以下のような条項が「インターネット時代に即した著作権」という観点からみて問題がある。

著作物のテキスト&データマイニング利用は研究目的に限ってのみ著作権の例外が適用されるため、企業は商業目的でデータマイニングをする(ために著作物をコピーする)ことができない。
EU内でずっと問題視されてきたジオブロッキング(ユーザーとサービス提供者の間の地理的要因によってオンラインサービスへのアクセスが拒否されてしまうこと)問題への解決策は示されなかった。
ユーザーが公共の建物を自由に撮影してアップすることのできる「パノラマの自由」は、明確に条文に入っていなかった(つまりユーザーがエッフェル塔などを撮影してオンラインにアップすることが著作権侵害に当たる可能性がある)。


 さまざまな点からみて、「デジタルな利用のされ方を促す著作権」どころか、出版社や音楽業界などにのみ権利強化が偏重してしまった今回のEU改正著作権法草案。

 この草案による懸念は日本にとっても他人事ではない。著作権の保護期間は最初にEUで70年になり、それがアメリカにも適用され、いまTPPによって日本にもその影響が及ぼうとしているように、現在の国際的な自由貿易協定の潮流のなかでは、日本の法律がEU法に影響を受けずにいることは不可能だ。

 ましてや、著作権という分野はインターネットの登場によっていままさにボーダーレスで問題を考えていかなければならない領域だ。この草案を機に、「著作権のおよぶ範囲」「ユーザーの権利の範囲」がどのようなバランスでデザインされるべきか、日本でも根本的に考えていく必要がある。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

再送-AIが投資家の反応加速、政策伝達への影響不明

ビジネス

米2月総合PMI、1年5カ月ぶり低水準 トランプ政

ワールド

ロシア、ウクライナ復興に凍結資産活用で合意も 和平

ワールド

不法移民3.8万人強制送還、トランプ氏就任から1カ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中