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alt-right(オルタナ右翼)とはようするに何なのか

2016年9月5日(月)17時10分
八田真行(駿河台大学経済経営学部専任講師、GLOCOM客員研究員)

alt-rightと3派の関係は

 さて、大ざっぱに言えば、alt-rightと3派は以下のような関係にあると思われる。

 ・まず、そもそもレイシズムを全面に押し出すと、それだけで共和党内では(少なくともオフィシャルには)受け入れられない。なにせ痩せても枯れても奴隷を解放した「リンカーンの党」なのである。また、共和党内で神格化されているレーガン大統領は、レイシズムを嫌っていた。

 ・alt-rightはネオコンとは非常に食い合わせが悪い。移民反対、(自国産業や文化を破壊する)グローバリゼーション反対、自由貿易反対、ワシントンのエスタブリッシュメント反対、大企業反対(先にも述べたように、オキュパイ運動などとも実は接点がある)なので、ほとんど全てにおいてネオコンとは敵対する。

 ・alt-rightはペイリオコンとは比較的相性が良い(なので、人によってはペイリオコンの後継者がalt-rightだという見方をする人もいる)。移民の問題、あるいはジェンダーというか男らしさ女らしさの問題、リベラル嫌悪などでは共闘できる。しかし、alt-rightは宗教的戒律を重視しないので、多くがLGBTQ支持、同性婚支持、妊娠中絶支持、ドラッグ合法化支持であり、快楽的なライフスタイルを好んでいる。この点でペイリオコンとは同調できない。

 ・alt-rightはリバタリアンとは共通する要素が多い。ホンネを剥き出しにしたリバタリアニズムがalt-right、という感もある。新反動主義のようなものは、堕落したリバタリアニズムと捉えることもできよう。しかし自由貿易や移民問題においては、リバタリアンとalt-rightに大きな意見の相違がある。


 ゆえに、3派のどれとも重なる部分もあれば、全く相容れない部分もある、というのがalt-rightになる。

 2016年の共和党大統領候補予備選では、3派を代表する候補が出馬していた。ネオコンがジェブ・ブッシュやマルコ・ルビオ、ペイリオコンがテッド・クルーズやベン・カーソン、リバタリアニズムがランド・ポールである。

 しかし今までの話からも明らかなように、彼らはalt-rightとは相容れない部分が多すぎる。そこに政治の世界では全くのアウトサイダーながら、alt-rightにぴったりの候補が現れたのである。彼は移民に反対し(国境に壁)、自由貿易を否定し、ワシントンやウォール街に巣くう既得権者をやっつけた。強い男性(のイメージだけはなんとなくある)であり、女性を軽蔑し(しかし嫁さんは美人)、ポリティカル・コレクトネスをものともしない下品なホンネを語った。

 alt-rightが嫌うネオコンに支持されたジェブやルビオを完全に打ちのめし、宗教右派が支持するテッド・クルーズも退け、リバタリアンのランド・ポールを寄せ付けなかった。それがドナルド・トランプだ。トランプの政策は支離滅裂と称されることが多いが、alt-rightの政策も(都合の)良いとこ取りというか十分支離滅裂なので、ちょうど良かったのである。

 トランプの台頭は、もう一つの興味深い事実も示唆している。それは、共和党支持者の大多数は、実のところ別に共和党の主流思想の支持者ではなかった、ということだ。彼らはなんとなく民主党がイヤなので共和党、という程度で投票していたのであって、自分たちの嗜好によりマッチする候補者が出てくれば、そちらに投票する。トランプはこうした共和党支持層の中のサイレント・マジョリティをうまくつかんだのである。

 そしてこのサイレント・マジョリティこそが、alt-rightの培地ともなっているわけだ。さらに言えば、リベラルのほうでもバーニー・サンダースは、民主党、あるいはアメリカ人の少なからぬ数が、今まで蛇蝎のごとく嫌われているとされてきた社会民主主義的な志向を持っていることを明らかにしたという点で、トランプと似通った立ち位置と言えるのである。

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