最新記事

BOOKS

「反安倍」運動に携わるシニア左翼の実態と彼らのSEALDs評

2016年8月22日(月)21時12分
印南敦史(作家、書評家)

 まずは若いころから左翼的な運動を経験し、60歳を超えた今日まで続けている「一貫組」。だが、これ自体がさらに3つに分けられるそうだ。1つは、革命を目指している党派に属する職業革命家、新左翼党派の「中核派」や「解放派」の現役活動家たち。次は、日本共産党や旧社会党の政治家、労働組合の専従活動家。最後は、党派や労働組合とは離れているものの、シンパとして活動を続けている人たち。表立って活動しないものの、1960年代のベトナム戦争や1990年代の湾岸戦争に反対するなど、一貫して反戦運動を行っていた人たちである。

 そして2つ目のタイプは、「復活組」。かつて社会運動をしていたが就職してから政治とは一切縁を切ることに。しかし60歳を過ぎて定年となり、再び政治活動をはじめた人たちだ。復活のきっかけが原発事故だったということにも納得できるが、上野千鶴子、内田樹、高橋源一郎などもここに含まれ、学者に多いタイプだという。

 次は、その時々に起こった出来事に反体制的、反権力的な意見を表明する学者、作家、評論家、ジャーナリスト、俳優、ミュージシャンなどの著名人からなる「『ご意見番』組」。メディアや集会などで積極的に発言してきた市井の人たちも含み、自民党など保守政党を支持せず、旧社会党、民主党、日本共産党を支持してきた人々。

「初参戦組」は、60歳を超えて初めて左翼的な運動、発言をした人たち。過去に学生運動、労働運動、市民運動の経験は一切なく、しかし孫の代になる10代の子たちの将来を考えると、原発再稼働は認められず、「戦争につながる」安保関連法案は許せないと考える人たちだ。

 そして、すべてのタイプに共通しているのが、「残りの人生をかけて運動を行いたい」とする熱血派が多いことだとか。彼らの多くは自分たちの孫やひ孫にあたる世代のSEALDsに強く共感しており、そのことは「なぜ『SEALDs』に熱くなるのか」と題した第2章で深く掘り下げられている。だが当のSEALDsにはそうした意識は希薄で、「熱血派」であるかないかという点において、シニア左翼世代とSEALDs世代とには大きな隔たりがあるだろう。

【参考記事】SEALDs時代に「情けない思いでいっぱい」と語る全共闘元代表

 ただし、そうはいってもシニア左翼世代がSEALDsの活動を新鮮に感じていることには大きな意味があるはずだ。この章で著者は、シニア世代100人にSEALDs評を聞いているが、そこにも評価の声が多い。


「おしゃれで、かわいくていい」
「一生懸命に勉強している」
「礼儀正しく謙虚」
「全共闘世代がなぜ敗北したか、SEALDsの登場でわかった。われわれはSEALDsを見て反省すべき」(60ページより)

 SEALDsのことを「評価する理由」のなかにこのような意見を発見すると、彼らが下の世代からなにかを感じ取り、学び、受け入れていることがわかる。それは、とてもいいことだと思う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中