最新記事

ロボット工学

ハードウェアも電力も使わずに動く、完全にソフトな「タコ型ロボット」

2016年8月26日(金)17時05分
高森郁哉

Wehner et al. Nature 2016

 米ハーバード大学の研究チームが、化学反応と気体の圧力を利用して自律的に動くタコ型のロボットを製作した。全身が柔らかい素材で作られ、可動部を動かすためのハードウェアも電気回路も使われていないのが特徴だ。学術誌「ネイチャー」のオンライン版が8月24日に論文(PDF)を掲載し、同大学のサイトもニュースリリースで動画などを公開した。

足を動かす仕組み

 「オクトボット(octobot)」と名付けられたこのロボットは、ハーバード大の機械工学、マイクロ流体工学、3Dプリントをそれぞれ専門とする研究者らが協力して製作した。8本の足を動かす仕組みは意外にシンプルだ。

 本体部分の中で"液体燃料"の過酸化水素と触媒のプラチナを反応させると、水(液体と気体)と酸素ガスが発生。このガスが細い管を通って足に届き、関節に相当する作動装置が風船のように膨らむことで、足を持ち上げる。



フィードバックで自律的に動作

 しかし、オクトボットが画期的なのはむしろ、機械的な装置も電子回路も使わずに、自律的に動きを制御する仕組みのほうだ。先に説明した8本の足を動かす仕組みは、4本ずつの足がセットになった2系統で構成されている(液体燃料は目印のため、それぞれの系で赤と青の2色のインクで着色されている)。

 液体燃料の貯蔵部と化学反応を起こす部分の間には、電気回路のオシレーター(発振器)に相当する機構がある。オクトボットのオシレーターは、1つの系統から一定以上の空気圧を感知すると、その系統の化学反応を止めて、別の系統の化学反応を促進。この仕組みにより、足が4本ずつ交互に持ち上がる。オシレーターにより、作動装置にたまった気体もタイミングよく排出される。

octobot2.jpg

研究の意義

 動画の序盤で示されているように、研究チームはこれら内部の機構とオクトボットの全身をすべて、3Dプリンターで製作した。

 ハーバード大のチームはプレスリリースの中で、「ソフトロボット工学は、人と機械の相互作用に革命を起こす可能性がある。だが、これまでのソフトボディーロボットは、外部ボードのシステムにケーブルで結線されているか、ハードな部品に器具で固定されていた」と指摘。研究の意義として、「完全にソフトなロボットの主要装置を容易に製作できることを示し、より複雑な設計の基礎となるものだ」と説明している。

 研究チームはオクトボットの改良に意欲的だ。今後は、這ったり、泳いだり、周囲の環境に反応して動いたりするオクトボットを設計することを目指すと、プレスリリースの中で述べている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米大統領が中国挑発しないよう助言との事実ない=日米

ビジネス

中国万科、社債が約50%急落 償還延期要請

ワールド

香港高層住宅群で大規模火災、55人死亡・279人不

ビジネス

再送-第一生命HD、30年度の利益目標水準引き上げ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 10
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中