極右を選対トップに据えたトランプの巻き返し戦略
「トランプはトランプらしく!」――バノンの起用は、マナフォートの前任者ルワンドウスキが推し進めていた戦略への回帰を意味する。ポール・ライアン下院議長やミッチ・マコネル上院院内総務ら共和党主流派はこの戦略を嫌っている。イラクで戦士した米兵の遺族であるカーン夫妻を侮辱するなどトランプの暴走に頭を抱えている共和党主流派にとって、バノン起用は「悔い改める気なし」というトランプの挑戦状だ(共和党全国委員会はトランプ陣営への資金援助の差し止めを検討していると伝わる。もしそうなれば、トランプも考えを改めるかもしれないが)。
【参考記事】戦死したイスラム系米兵の両親が、トランプに突きつけた「アメリカの本質」
バノンがどんな人間か政界ではよく知られている。海軍の将校でゴールドマン・サックスで投資銀行業務を行った経験があり、人気コメディー『となりのサインフェルド』に出資して財を成したとされる。ブルームバーグ・ビジネスウィーク誌は昨秋、バノンを特集で紹介した。そのタイトルは、「この男はアメリカで最も危険な政界の仕掛人」。
バノンはブレイトバートで政界エリートを叩いてきただけではない。フロリダ州のNPO「政府説明責任研究所」の共同設立者として反クリントン・キャンペーンを展開してきた。この研究所が世に問うたのが『クリントン・キャッシュ』だ。クリントン夫妻がクリントン財団という慈善団体を通じて外国政府や企業から巨額のカネを集めたカラクリを暴いた調査報告書には杜撰な記述もあるが、資料としての価値はある。この報告書は昨年出版され、映画化されて幅広い層に衝撃を与えている。
ありのままの「正攻法」で攻めるという決意でバノンを雇い入れたトランプは、昨日までのトランプより手強くなるのだろうか。
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