戦死したイスラム系米兵の両親が、トランプに突きつけた「アメリカの本質」
Lucy Nicholson-REUTERS
<イラク戦争で息子を失くしたイスラム系アメリカ人夫妻の、民主党大会で語ったスピーチが話題となっている。アメリカの憲法の精神をわかっているのか、とトランプに問いかけた>(戦死した息子の遺影の前で米憲法の冊子を掲げるカーン夫妻)
二大政党の党大会で話題になるのは、指名候補や将来有望な政治家のスピーチ、候補を支持するスターの顔ぶれだ。しかしときには、無名の人々のスピーチが、著名な人々以上にパワフルなメッセージを伝えることがある。
先週、ヒラリーに招かれて民主党大会の壇上に立ったキズル・カーンは、パキスタン系のイスラム教徒の移民で、アメリカ国籍を持つ弁護士だ。息子フマユン・カーン大尉は、2004年にイラク戦争で自爆テロに遭い戦死した。
「ドナルド・トランプ。あなたは、アメリカの未来を預けてくれと言う。だが、その前に質問させてもらいたい。憲法を読んだことがあるのか? ないなら、私が持っている冊子を喜んで貸してやろう」
トランプはこれまで、「イスラム教徒のアメリカ入国を禁止する」「イスラム教テロリストの家族を皆殺し(take out)にするべき」「アメリカのイスラム教徒はテロリストを警察から隠している」などといった発言や示唆を繰り返してきた。トランプの発言の数々は、第二次世界大戦で日系アメリカ人が強制収容所に入れられた暗い歴史の復活を思わせる。現在、排斥のターゲットになっているのがイスラム教徒だ。
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それとは対称的に、民主党大会で何度も繰り返されたのは「人種や宗教にかかわらず、われわれ全員がアメリカ人だ。国民同士が背を向け合ってはならない。手をつなぎあうことで強くなろう」というメッセージだ。
アメリカのために闘い、アメリカ人の戦友を守って亡くなったカーン夫妻の息子はイスラム教徒だが、その前に「アメリカ人」だ。
悲しみを抑えて強い口調で呼びかけたカーンの言葉は、それまでのスピーチに抗議のブーイングをしていた人々を黙らせ、出席者全員の心を掴んだ。
最近続いているテロ事件で、欧州でも移民問題が注目されている。だが、欧州とアメリカのどちらにも住んだことがあるアメリカ人がよく語るのは、「欧州とアメリカでは移民の立場が違う」ということだ。イギリスとスイスで暮らした経験がある筆者も同様の意見だ。欧州では、元からの住民と移民がなかなか同等になれない。移民1世は最初からそれを承知で溶けこむ努力をするが、2世は努力しても「二流市民」にしかなれないことに絶望し、憤りを抱きがちだ。
一方、アメリカはもともと移民の国だ。アメリカではまだ白人のキリスト教徒がマジョリティだが、それが「アメリカ」ではない。憲法が宗教や人種による差別を禁じ、国民全員の平等を約束している。その根本的な原則で繋がっているのが「アメリカ」なのだ。