【ルポ】南シナ海の島に上陸したフィリピンの愛国青年たち
15歳の最年少メンバーを含む50人の若者は、まず西フィリピン海(2012年にフィリピンが公式名称とした南シナ海に当たる海域)を臨むパラワン島へ向かい、出発の機会をうかがった。12月24日、パガサ島へ上陸するための2泊3日の船旅がようやく始まった。メンバーの誰もが、中国からの攻撃を覚悟していた。だが意外にも、周辺海域で船を止めようとしたのは中国軍艦ではなく、フィリピン海軍だった。
荒波対策に苦労した。メンバーの中には泳げない人がいたため、万一に備え、泳げる人と泳げない人のペアが事前に組まれていた。波があまりに大きく、航行のあいだ、船の上でまともに立つことはできなかった。できることといえば、床に横になっておくことくらい。食料倉庫へ行くことすらままならならず、メンバーの中には酔って嘔吐する人もでてきた。それでも、木製の船なので転覆しても沈むことはないと信じていた。
その当時、船に乗っていた大学2年生のジェスパーに印象的だったことをたずねると、彼は未だ興奮冷めやらぬ様子で声を大きくして語った。「流星が見えた。すっごく大きなのが。すぐそこに。最初は中国がロケット弾を打ち込んできたのかと思った」
マニラのビジネス街・マカティ出身のジェスパーは、高校時代から生徒会で活躍するなど社会問題に興味があった。昨年、友達に誘われてこのグループの活動に参加した。その時にボランティアが言っていた「国家統一と愛郷心は、国を前進させるために避けては通れないジャンプ台だ」という一言に心を揺さぶられ、運動にのめり込むようになった。
3日目の昼にパガサ島に着いた。アンドレ(34)は船から降りると、足元にサンゴ礁の死骸があることに気づいた。中国が近くで人工島を造っていて、化学物質が流れ出てきたからではないかと推測した。中国はパガサ島周辺の魚を死滅させて食料を奪うことによって、島民が島から離れさせようとしているのだ、と思った。
わずか20キロ先に中国が実効支配するスビ礁
西フィリピン海に浮かぶ島々を管轄するカラヤン町政府は、政策としてパガサ島への移住を奨励してきた。しかし、予算不足の地元政府が提供できる食料には限界があるため、島民は120人以下にとどまっている。時々本島に帰る人もいるので、島に住民が90人ほどしかいない時もある。
パガサ島から西へわずか11海里(約20キロ)にあるスビ礁。中国側が実効支配するこの場所で、2010年には灯台が出現し、その翌年には直径20メートルのドーム状の建築物が登場した。さらに、中国は2014年から急ピッチで埋め立てを行い、その面積はすでに395万平方メートルに達している。