最新記事

投資

仮想通貨の投資ファンド「The DAO」が市場ルールを変える

2016年7月4日(月)16時00分
ケビン・メイニー

Alengo/iStockphot

<少額からでも参加できる「民主的」なクラウドファンディングと仮想通貨を使った投資ファンドの登場で、投資はもう金持ちだけの特権じゃなくなる?>

 勤労者諸君、働かずに稼ぐ方法は競馬や宝くじだけじゃない――コンピューターの知識があるのなら。

 ごく一部の大金持ちだけでなく、凡人にも豊かになれるチャンスはある。そんな未来を予測させる出来事が、5月末に2つあった。

 1つは、The DAOと称する新プロジェクトが短期間に1億2500万ドルもの資金を調達できたこと。これは、ビットコインのような仮想通貨に使われるブロックチェーンの技術を応用したDAO(自律分散型組織)と呼ばれる仕組みを利用している。もう1つは、米政府の規制改革で(ほとんど)誰でも非上場企業の株を買えるようになったことだ。

 ピンとこない? でもこれらは「資本の民主化」を促す重大な変化だ。うまくいけば巨大金融機関やヘッジファンドの特権的な力をそぎ、われら凡人もネットワーク経済の成功に相乗りできるかもしれない。

 そもそもThe DAOとは何か。ネットにつながる無数のコンピューターで構成され、高給取りのファンドマネジャーに頼らず自律的に運用されるファンドだ。もちろん誰でも、少額から参加できる。

【参考記事】「次のインターネット」、噂のブロックチェーンって何?

 投資先企業の選定は、投資家全員の投票で決まる。個々の出資契約はソフトウエア化されていて、投資先企業の業績を自動的にチェックし、その事業が成功すれば、すべての投資家に配当が分配される仕組みだ。

 やっていることはベンチャーキャピタルと同じだが、違うのは大金持ちや機関投資家でなくても参加できること。さらに、ブロックチェーンの分散管理により参加者それぞれが取引台帳を管理するため、投資会社を介在させる必要がない点だ。

 ただし、The DAOはまだテスト飛行の段階にある。だから凡人は、その成否を遠くから見守るしかない。それに、投資に使うのは現実の通貨ではなく「イーサ」と呼ばれる仮想通貨だ。これはビットコインよりも分かりにくく、手に入れにくい。またアメリカを含む多くの国で法律の枠外にあり、違法と判断される恐れもある。

 しかし中央集権型から分散型への流れは変えられない。The DAOがどうなろうと、その背景にある概念と技術が消え去ることはなく、日々改善されていく。そうであれば、今は試験飛行でも、いずれは万人にとってそれなりに安全な仕組みとなり、資本市場や富の分配方法を一変させる可能性がある。

 さて、めくるめくDAOの世界に比べると、2つ目は地に足が着いている。こちらは米証券取引委員会(SEC)が採用した新たな投資のルールで、非上場の新興企業などがクラウドファンディングを通じて出資を募り、無数の少額投資家に自社株を発行できることになった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、次期FRB議長にウォーシュ氏かハセット

ビジネス

アングル:トランプ関税が生んだ新潮流、中国企業がベ

ワールド

アングル:米国などからトップ研究者誘致へ、カナダが

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、方向感欠く取引 来週の日銀
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナの選択肢は「一つ」
  • 4
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 5
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 6
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 9
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 7
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中