グーグルでヨガを広め、マインドフルネスの導き手となった男
マインドフルネスのノンフィクションでもある
興味深いのは、本書『リセット』が、カライル氏の実体験に基づくノンフィクションとしても読めることだ。
2013年、南アフリカのネルソン・マンデラ死去の報を受けると、カライル氏はいち早く「Google+(グーグルプラス)」で追悼イベントを立ち上げ、世界の人々と共有する企画に着手する。志を同じくする仲間たちとともに、コミュニケーションツールを駆使して一大プロジェクトを実現するまでの軌跡が語られていく。
デズモンド・ツツ元大主教、ダライ・ラマ14世をはじめ、実業家のリチャード・ブランソン氏など、マンデラ氏と交流のあった著名人たちに参加を呼びかけ、見事に成功させる。まさに、マインドフルネスのなせるわざなのだ。追悼イベントの最後にダライ・ラマ14世は、人類が困難に直面したとき、「力(武力)ではなく、思いやりの心をもち、憎しみを捨てることだ」と語り掛ける。
これはあくまで一例だが、他にも世界各地を旅した経験や、トライアスロンに挑戦したエピソードなどを交えながら、生活の中にヨガと瞑想を取り入れ、マインドフルネスを実践するための、さまざまなアイデアを伝授する。
印象的なセンテンスを対訳で読む
最後に、本書から印象的なセンテンスを。以下は、『リセット』の原書と邦訳からそれぞれ抜粋した。
●The one-inch cube of ice that was limited in its physical presence is now this entire oceanic system.
(物理的に限られた存在にすぎなかった、1インチ大のアイスキューブ。それが巨大な海洋系そのものになる)
――サンフランシスコのゴールデン・ゲート・ブリッジから投げ入れたアイスキューブは溶けて太平洋の一部となる。氷としてのアイデンティティは失われるが、偽りの「自分」が生み出す苦悩から解放され、より大きな可能性と融合するというヨガの真理を分かりやすく説明している。
●Imagine you're trying to work through a complex mental task and you're in the middle of Times Square, with all its noise and commotion and confusion, with so much to see, so many distractions coming at you from all directions.
(ちょっと想像してほしい。あなたは今、ニューヨークのタイムズ・スクエアのど真ん中にいる。たくさんの人、車、バス、カラフルな動画広告。喧噪やざわめきとともに、いろいろなものが次々に視界に入ることだろう)
――瞑想は、タイムズ・スクエアの喧噪をのがれて、ウェスティンホテルやダブルツリーの部屋にこもるのと似ている。心を落ち着けて、意識をクリアにすることで、明晰な思考と集中力が得られる。結果的に、複雑な作業も効率よく終わらせることができるという。
●"Gopi," he said, "why don't you start with one breath? Because an hour of meditation is about six hundred breaths strung together, and you have to get past the first breath and the second before you get to the six hundredth."
(「ゴーピ、ヨガの呼吸を1回だけやってみるのはどうだろう? というのも、1時間の瞑想は呼吸を約600回繰り返す。だけど最初の呼吸を終えてからでないと、2回目の呼吸に入ることはできない。結局600回に達するまでそれの繰り返しなんだ」)
――ヨガと瞑想を毎日続けるために、何か工夫できることはないだろうか。そう考えた著者が、同僚で友人のチャディー・メン・タン氏(『サーチ・インサイド・ユアセルフ』著者、邦訳・英治出版)に相談してみたところ、返ってきたのがこの思いがけないアイデアだった。たとえ1分という短い時間でも、習慣にすることで効果があるという。
ヨガと呼吸ひとつで世界を変えることができるかもしれない――そんな期待を抱かせてくれる一冊だ。
『リセット――
Google流 最高の自分を引き出す5つの方法』
ゴーピ・カライル 著
白川部君江 訳
あさ出版
トランネット
出版翻訳専門の翻訳会社。2000年設立。年間150~200タイトルの書籍を翻訳する。多くの国内出版社の協力のもと、翻訳者に広く出版翻訳のチャンスを提供するための出版翻訳オーディションを開催。出版社・編集者には、海外出版社・エージェントとのネットワークを活かした翻訳出版企画、および実力ある翻訳者を紹介する。近年は日本の書籍を海外で出版するためのサポートサービスにも力を入れている。
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