最新記事

英EU離脱

英EU離脱の教訓:経済政策はすべての層のために機能しなければ爆弾に引火する

2016年7月11日(月)17時10分
ブレイディみかこ

残留派がロンドンに集結し「March for Europe」と称してデモ行進した。7月2日 Paul Hackett/REUTERS

<労働党政権の元首相ゴードン・ブラウンは、EU離脱投票の結果は、アイデンティティにまつわる政治の枠組ではなく、経済問題として考えるべしと唱えている...>

「アイデンティティ」政治ではなく経済の問題

 先の労働党政権の元首相、ゴードン・ブラウンが「ブレグジットが残した最重要な教訓は、グローバリゼーションは英国の全ての人のために機能せねばならぬということ」というタイトルの記事を書いていた。彼は、EU離脱投票の結果は昨今流行りのアイデンティティ・ポリティクスの枠組ではなく、経済問題として考えるべし。ということを、いかにも彼らしく地味に、いぶし銀のような筆致で描いている。


我々の国のように多様化した国が離脱派のキャンペーンのような内向きの、反移民のレトリックで何年も過ごすわけにはいかない。だが、同様に我々は、この国の鍵を握る心配事を拒否する残留派のタクティクスでは前進できない。(中略)
誰もが認識しているが口に出したくない重要な問題は、グローバリゼーションだ。我々のグローバル経済における劇的な変化のスピード、範囲、規模。その結果、我々が失ったものを最も明らかに表しているのは、アジアとの競争にさらされた製造業の崩壊で空洞化した労働者の街だ。(中略)
グローバリゼーションは抑制可能で、自分たちの利益を守ることも可能なのだと思えない人びとは、当然ながら「人間の移動」を争点にした反グローバリゼーションのムーヴメントに参加することになる。

出典:Guardian:"The key lesson of Brexit is that globalisation must work for all of Britain" by Gordon Brown

英国のユーロ導入を阻止した元首相の提言

 しかしながら、ブラウン元首相は、今後の行き方はある。と提案する。


グローバリゼーションだって公平でインクルーシヴなものにできるのだということを我々が示せなければ、反グローバル主義運動があちこちに現れ、政治は国籍や民族、または「アイデンティティ」を軸にして動くことになる。昨今の政治を分けているのは「オープンな世界」か「閉じられた世界」かの概念だと言う人々もいる。
だが、この考え方は、システムからイデオロギーを取り除きたい人々や、グローバリゼーションのアキレス腱である「開き過ぎる格差」と直面したくない人びとの逃げ場であるように僕には思える。
本当に政治を分けているのは、不公平に立ち向かい、うまく管理されたグローバリゼーションを支持するのか、介入を許さない完全に自由なグローバル市場を求めるのか、シンプルに反グローバル主義を唱えるのか、ということであろう。

出典:Guardian:"The key lesson of Brexit is that globalisation must work for all of Britain" by Gordon Brown

 ブラウン元首相は、「資本、労働力、モノとサービスの自由な移動、即ちマイグレーションから派生する(だがヒステリックなまでの物議を醸すことがある)様々のイシューを調査する委員会」を設置し、世界中からこの問題の専門家を集め、担当大臣も配置せよと提案している。ブラウン首相はブレア政権の財務相を務めていた頃、英国の単一通貨ユーロ導入の是非を測定する「5つの経済テスト」を行い、英国のユーロ導入は時期尚早と判断した人物でもあり、彼がその決断を下した時のように、ノルウェーやスイス、カナダ、WTOモデルなど、あらゆる可能性を深く探るべきだと書いている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

アングル:米株市場は「個人投資家の黄金時代」に、資

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック小幅続落、メタが高

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、156円台前半 FRB政策

ビジネス

FRB、準備金目標範囲に低下と判断 短期債購入決定
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中