連続テロから5年 復讐という選択肢を拒むノルウェー 遺族や生存者が当時の悲惨なSMSを公開
テロを経験したノルウェーのこのような対応は、テロ事件が度重なる世界の中でも特殊だと話題を集めている。その一部は、生存者や犠牲者の家族の、その後の生き方。そして、テロの引き金のひとつであった、憎悪や差別感情との国民の向き合い方だ。パリなど他国でテロを経験した遺族の中には、ノルウェーの7・22サポートグループを訪問するなど、テロ後の対応について視察に来るものもいる。
銃乱射事件が起きた島に、民主主義や過激思想を学ぶ建物を立ち上げる
ウトヤ島には小舟で向かう。事件当時は、フィヨルドを泳いで生き延びた者もいた Photo:Asaki Abumi
事件から5年がたち、悲劇を後世に伝え続けるために、ウトヤ島にはメモリアルセンターが建てられた。13人の若者の命が奪われた現場となったカフェの小屋の解体を青年部は望んだが、世論が反対した。結果、犯人が撃った銃弾の跡などを残したまま、メモリアルセンターができた。「ヘインフーセ」(守護の家)と名付けられた館内には、生存者や犠牲者の家族の同意の下、当時のSMSのやり取りが寄贈され、展示されることとなった。労働党青年の現代表マニ・フサイニは、取材に対して「この家の名前は、中にあるものを守るという意味です。館内には、かつてのカフェの一部が残っています」と答えた。
7月15日付けのアフテンポステン紙では、館は「過去の出来事を悲しむ場所ではなく、未来を考える場所」であり、「どのような世界を望まないか考える場所ではなく、どのような世界をこれから作っていきたいか考える場所」だと説明されている。ただの展示館ではなく、「教育の場」でもあり、民主主義を問い、過激な極右思想、法制度、情報源を批判的に読み解く能力、ヘイトスピーチ、7・22に何が起きたのかを学ぶ場所となっている。9年生と10年生には社会科見学の場として提供される。テロの出来事を話しにくいと感じる教員がいる中、良い教育の場になりそうだ。
クラッセカンペン紙 18日付けでは、「なぜ事件は起きたのか、同じような悲劇をどうしたら避けられるか。歴史から学ばなければ、また繰り返される」とウトヤ島の代表ヨルゲン・フリドネスさんは語る。