最新記事

新冷戦

東欧でのNATO軍事演習にプーチンは?

2016年6月23日(木)17時31分
ルーク・コフィー

ナチス・ドイツのソレン攻撃75周年で軍旗を背にしたプーチン Alexander Zemlianichenko/Pool--Reuters

<東欧で領空侵犯などを繰り返すロシアを牽制するため、NATOがポーランドで史上最大級の軍事演習を行った。これで新冷戦が避けられるのか>

 ロシアと国境を接するNATOの「前線国家」ポーランドで、冷戦終結以降最大級の軍事演習「アナコンダ」が実施された。6月16日まで10日間にわたって行われた訓練には、米兵1万4000人をはじめ、24カ国の3万1000人の兵士が参加。NATOの東端の防衛力を見せつけた。

 そこに込められたメッセージは明らかだ。「ロシアよ、見るがいい、アメリカとその同盟国は北大西洋条約の定める責務を果たし、東欧諸国を守り抜く覚悟だ」

【参考記事】もし第3次世界大戦が起こったら

 米軍発表によると、演習の目的は「戦闘力を配備・集結・維持する同盟の防衛能力を示し、安全保障と戦争抑止のための諸策を補強する」ことだ。

 もしもロシアが攻めてきても、アメリカがついているから大丈夫――ポーランドはじめ、NATOの東側の国々はそんな力強いメッセージを受け取ったことになる。

 ロシアがクリミアを編入し、ウクライナに侵攻して以来、NATOの東欧の加盟国はロシアの動きに神経を尖らし、NATOの集団防衛という「盾」を強く求めるようになった。歴史を振り返れば、その懸念は理解できる。

【参考記事】戦争の時代:ロシアとの最終戦争は回避できるか

頭の中は帝政ロシア?

 ロシアは帝政時代に占領した東欧諸国を今でも自国の裏庭とみなしている。帝政ロシアは絶頂期には1日約230平方キロのペースで領土を拡大した。1896年までには、皇帝ニコライ2世は「すべてのロシア人を治める皇帝にしてモスクワ大公国の君主、ポーランド、キエフ、リトアニア、フィンランド、エストニア、ブルガリアその他多くの国々の支配者」の称号を誇るようになった。

 ロシアは今でもこれらの国々をまともな主権国家と認めず、かつての属国か衛星国とみなしている。

 これらの国々の多くはNATOの加盟国で、今では西側に属しているが、帝政ロシア、さらには旧ソ連の支配下に置かれた苦難の歴史から、ロシアの拡張主義に対する警戒感は強い。

【参考記事】新冷戦へNATO軍がポーランドで軍備倍増

 バルト3国(ラトビア、リトアニア、エストニア)はいずれも小国で、地理的に他のNATO加盟国と切り離されている上、国内にかなりの数のロシア系住民を抱えている。バルト3国は今、軍事力の行使とは異なる、ソフトな脅威に直面している。積極工作と呼ばれる手法だ。近頃では、こうした工作による介入を「ハイブリッド戦争」と呼ぶことも多い。

 積極工作は一種の情報戦だ。偽情報、プロパガンダ、世論操作などを通じて、外国の政府や人々の行動に影響を与える。旧ソ連時代には、KGBが特定の地域を不安定化するために盛んにこの手法を行った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

スペインGDP、第3四半期改定は前期比+0.6% 

ワールド

タイ、金取引の規制検討 「巨額」取引がバーツ高要因

ワールド

米当局、中国DJIなど外国製ドローンの新規承認禁止

ワールド

中国、米国に核軍縮の責任果たすよう要求 米国防総省
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 4
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 5
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 6
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 7
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中