リアルなVRの時代がついに到来
「バーチャル・リアリティー」という言葉の生みの親としても知られるドレッドヘアのレーニアは、一躍VR業界の顔となり、テクノロジーファンの間でロックスター的な地位を確立した。
ただ1つ問題があった。「ハードウエアが安くなかった」と、ジマーマンは言う。VPLのアイフォンは89年の発売当初で1万ドル。ほかのVRシステムは20万ドルに上るものもあった。
その時代、消費者向けに開発されたVR製品はほかにもある。任天堂の3Dゲーム機「バーチャルボーイ」は、90年代半ばの失敗例として有名だ。それから約20年の間、VRは主に研究所や軍事、産業用の高性能機器に限定され、日の目を見ずにきた。
手が届きそうで届かない──一般向けVRは空飛ぶ車や飛行装置ジェットパックなどと同じく、「過去に夢見た未来の製品」で終わるかに見えた。
VPL社は90年代に破産し、初期のVR開発者たちは他の分野に転向した。ジマーマンはIBMに、レーニアはマイクロソフトの研究者に落ち着いた。
だがここにきて、ついに技術がVRの構想に追い付いてきた。数十年前より格段に進化したデスクトップコンピューターや高解像度のスマートフォン普及のおかげだろう。
オキュラスが数十億人の日常に
そんな時代に登場したのがハードウエア開発者のパルマ・ラッキーだ。2012年、ラッキーは資金調達サイトのキックスターターでVRヘッドセット開発の資金を募った。すると4時間以内に目標額の25万ドルを、最終的には240万ドルを調達。彼は後にオキュラスVR社を創業し、定価599ドルの製品版「オキュラスリフト」の予約者向けの出荷が最近始まった。
同社は14年、フェイスブックに20億ドルで買収された。マーク・ザッカーバーグCEOは当時、オキュラスの技術がいつか「何十億もの人々にとって日常になる」と期待を寄せた。
【参考記事】オキュラスリフトで未来をのぞく
今年のCESを見渡せば、多くの人が、そして企業がVRの未来に関心を寄せているのが分かる。オキュラスがVRゲームコーナーに設けた巨大ブースはCESの目玉となり、2時間待ち以上の行列ができた。ソニーやサムスン、台湾の携帯電話大手HTCも独自のヘッドセットを実演。仏ソフトウエアのダッソー・システムズや米ケーブルテレビのサイファイ、NASAなどが開発したVR向けアプリも多数発表された。