働き方の多様性は人と企業にメリットをもたらす
それから年金についてよく質問を受けますが、これについては会社勤めを全うしたところでちゃんと厚生年金がもらえるのか、そもそも国の年金制度が永続的に機能するのかという疑問もあります。
なので年金というより、引退した後どうするか、貯金でやっていくのか、引退してもできる仕事を考えるのか、何らかのビジネスオーナーで多少の収入をもらうのかといった選択肢をこれからの日本人は考えることになると思います。ナリワイ的生き方では、生涯現役かつゆるやかに自給的生活にシフトしていく、ということをイメージしています。さまざまなナリワイを経験していけば、低コストで楽しく生きていける技が溜まっていくのではないでしょうか。
海外でナリワイ的生き方がどう受け止められるか
ナリワイの今後の展開としていくつか考えていることがあります。
1つは、海外にこういう考え方がどう受け止められるかを確かめたい。『ナリワイをつくる』という僕の本の韓国語版を読んだ韓国人の方が、土窯パン屋のワークショップにいらしたんですよ。読んで行動した人がいたことに可能性を感じます。
韓国語版はエージェントから勧められての発行でしたけど、さらに他の国でも展開できればと思って、先日は友人に紹介してもらって台湾の出版社に台湾語ができる人と押しかけて直談判しました(笑)。ついでに台湾で仕事を作れたらいいなとも目論んでいます。個人の働き方と生き方と現代社会システムとの関係性は世界的なテーマであると思うので、日本にこだわりはないです。
あとは個人的に作ったいろいろなナリワイについて、他の人が始めやすくする情報インフラを作れたらと思っています。シンプルなウェブサイトで、告知ができる程度でもいいかもしれません。
それから土窯パン屋のような暮らし方と生業のワークショップについてはバリエーションを増やそうと思っています。例えば豆腐屋さんや製塩業など田舎でやれる自営業のモデルをいろいろ発掘して、そこに直接見習いできる学校をやりたいなと。これは編集やライターをしている人の協力をまず得て、現場を取材して一緒にプログラムを考えて、募集の文章を書いて受付対応するという流れになると思います。他の人にも利益が回ることを仕事にしていけたらいいですね。
武者修行ツアーも、モンゴルとタイ以外の国へ発展させていきたい。「フィンランドでやってほしい」という声もあがっているので、実現に向けて模索しているところです。いろいろ計画があるので楽しみながら進めていきたいと思っています。
WEB限定コンテンツ
(2015.10.23 品川区のスタジオ4にて取材)
※インタビュー前編:個人の身の丈に合った「ナリワイ」で仕事と生活を充実させる
「個人で元手が少なく多少の訓練ではじめられて、やればやるほど健康になり技が身につき、仲間が増える仕事」をナリワイとして伊藤洋志氏が提唱。自力で仕事や生活を作る人のネットワークでもある。2007年より活動。
http://nariwai.org/
伊藤氏の著書『小商いのはじめかた――身の丈にあった小さな商いを自分ではじめるための本』(東京書籍)では、ナリワイの作り方を具体的に指南している。
* 島根県では平成10年に「中山間地域研究センター」を設立。翌11年に「島根県中山間地域活性化基本条例」を制定し、中山間地対策を最重要課題と位置づけた。 県が目指す中山間地域の姿は「にぎわい」「生きがい」「なりわい」「助けあい」があるというもの。「半農半X」や「6次産業化」も活用しながら、個人が複数の事業を組み合わせて生計を立てることを推進している。
伊藤洋志(いとう・ひろし)
1979年生まれ。香川県丸亀市出身。京都大学大学院農学研究科森林科学専攻修士課程修了。「ナリワイ」代表。会社員、ライターを経て、2007年より、生活の中から生み出す頭と体が鍛えられる仕事をテーマにナリワイづくりを開始。現在、シェアオフィスの運営や、「モンゴル武者修行ツアー」、「熊野暮らし方デザインスクール」の企画、「遊撃農家」などのナリワイの傍ら、床張りだけができるセミプロ大工集団「全国床張り協会」といった、ナリワイのギルド的団体運営等の活動も行う。著書に『ナリワイをつくる』、共著に『フルサトをつくる』(ともに東京書籍)。