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インタビュー

働き方の多様性は人と企業にメリットをもたらす

2016年4月22日(金)16時11分
WORKSIGHT

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ナリワイと会社勤務が相互に行き来できる世の中に

 一方で、ナリワイは企業のビジネスに可能性をもたらすものでもあると思います。

 個人がビジネスをやりやすくするツールを作れば事業として成り立ちます。決済システムは格段に進歩しているし、Airbnbも個人が宿泊体験業をやるためのインフラともいえますよね。個人レベルの小さな事業は企業から見れば魅力的に映らないかもしれないけれど、でもだからこそ取り組んでみると他の企業が得られない鉱脈を見つけられるかもしれません。

 それから、会社組織では基本的に分業が行われているので、ナリワイを通して事業の川上から川下まで経験すると個人の対応力が上がります。自分で作ったものは自分で販売せざるを得ないので、会社で販売を担当していなくても、なるほどこういうことかと理解が深まる。そういう人が仕事をした方が部門間の連携もスムーズに行くはずだし、それは会社にとってもメリットになるでしょう。

 もう1つ、ユーザーや市場からのフィードバックをダイレクトに受けられるので、やる気が高まるのも利点です。僕自身、遊撃農家でミカンを販売して、お客さんから「めっちゃうまくて、あっという間になくなりました」とか言われるとやってよかったと思います。会社で販売以外の仕事に従事していたら、こういう生の声に触れることもできません。

 究極的には、ナリワイと企業勤めの間の垣根が低くなることが望ましいですね。タイミングが合ったからナリワイをしばらく休んで数年企業で働くとか、相互の行き来がしやすい世の中になればいい。固定されたり選択肢が限られたりするよりは、風通しがいい方が生活も仕事ものびのびできますよね。

ナリワイ的生き方に身を投じる前に自分が譲れないものを明確にしておく

 僕の場合、今のところ食べていくのに困らない収入は得られています。たまに海外調査に行って、新しいツアーのヒントになりそうな面白い場所を探るくらいのことができて、美術作家の作品が2、3点買えるかなという感じ。先ほどの島根の例でも、家族を養いながらナリワイ的な生き方をしている人が多いわけで、やろうと思えばできることなんです。

 ただ、ナリワイ的生き方に身を投じる前に、自分にとって譲れないものが何かを明確にしておく必要はあろうかと思います。中高一貫の私立校に子どもを入れさせたい、それ以外の道は考えられないというような価値観の人には向いていません。自分たちが健康に暮らしていくのはともかく、子どもの大学進学や留学の際に世間的なステータスを求める姿勢は噛み合わないと思います。

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伊藤氏はできる範囲で名刺を手書きしている。出会いを大切にする姿勢がにじみ出ているようだ。

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