最新記事

インタビュー

個人の身の丈に合った「ナリワイ」で仕事と生活を充実させる

2016年4月21日(木)06時12分
WORKSIGHT

wsNariwai-5.jpg

野良着の形を生かした作業服作りでは、デザイナーやウェブシステム統括者と検討を重ねた。

 それからもう1つ、長い目で見ると、ナリワイ全体としてある種のコミュニティが育っている。これも注目すべき点だと思います。武者修行ツアーの参加者がミカンを買ってくれたりするんですよ。だからミカンを買った人がツアーに興味を持ってくれるかもしれない。全体的に相乗効果が少しずつ出るようにナリワイを組み立てることも重要だと思います。

クラウドファンディングで農作業着を作る

 一番新しいナリワイは、「日本の野良着の形を生かした作業服作り」と銘打って、農作業着を中規模に製造販売するというものです。

 おしゃれで動きやすくて機能的な服というと、パタゴニアとかコロンビアとかのアウトドアウェアになってしまう。それもいいんですけど、農業にはハイスペックすぎるし、かといって建設業や工場のような作業着もちょっと違うだろうと。しかもそういう服って中国製だったりするんですよね。国産の野菜を食べようとか言っているのに、着ている服が外国製では矛盾しているんじゃないか。

 そう考えて、できる限り日本で作られた生地を使って、縫製も日本で行って、日本の農業にちょうどいいものを作ろうと決めました。実際の農作業を通してポケットの位置などもこだわっています。

 クラウドファンディングで資金を募って生産するので、在庫リスクを少なくしています。ただ、今までのように全く在庫なしというビジネスと違うので新しいチャレンジではありますね。

失敗も楽しみながらナリワイを磨いていく

 ビジネスなので失敗もありますよ。例えばミカンを発送するのに宅配業者と行き違いがあったり、モンゴルのツアーでは生の牛乳を遊牧民の家でいただいてお腹を壊してしまったり。思いつきでアイドルのプロデュースをやろうとして頓挫したこともありました。床張りの延長で古い家の天井をバールでぶっ壊したら、ものすごい埃で全身に炎症が出たこともありましたねえ。

 そういう苦労はたくさんあるんですけど、でもそれも含めて楽しいんです。ナリワイを開発すること自体に面白さを感じています。

 いろんなナリワイを手掛けていくうちに、だんだん自分に合ったナリワイが絞り込まれていきます。手放したナリワイが無駄になるわけでなく、世の人がまねしてできるならそれはそれでいい。1人がいちどきに抱えるナリワイは3つくらいで十分かなと思いますけど、ナリワイを提唱する立場としていろんなモデルを開拓して発表していくのも仕事の1つと考えています。

WEB限定コンテンツ
(2015.10.23 品川区のスタジオ4にて取材)

※インタビュー後編:働き方の多様性は人と企業にメリットをもたらす

wsNariwai-site.jpg「個人で元手が少なく多少の訓練ではじめられて、やればやるほど健康になり技が身につき、仲間が増える仕事」をナリワイとして伊藤洋志氏が提唱。自力で仕事や生活を作る人のネットワークでもある。2007年より活動。
http://nariwai.org/


伊藤氏の著書『ナリワイをつくる――人生を盗まれない働き方』(東京書籍)では、ナリワイの概念やあり方を分かりやすく解説している。


weNariwai-portrait.jpg伊藤洋志(いとう・ひろし)
1979年生まれ。香川県丸亀市出身。京都大学大学院農学研究科森林科学専攻修士課程修了。「ナリワイ」代表。会社員、ライターを経て、2007年より、生活の中から生み出す頭と体が鍛えられる仕事をテーマにナリワイづくりを開始。現在、シェアオフィスの運営や、「モンゴル武者修行ツアー」、「熊野暮らし方デザインスクール」の企画、「遊撃農家」などのナリワイの傍ら、床張りだけができるセミプロ大工集団「全国床張り協会」といった、ナリワイのギルド的団体運営等の活動も行う。著書に『ナリワイをつくる』、共著に『フルサトをつくる』(ともに東京書籍)。

※当記事はWORKSIGHTの提供記事です
wslogo200.jpg


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中