最新記事

北朝鮮

北朝鮮では370万台の携帯で噂やデマが広まっていく

携帯電話の普及率は2世帯に1台以上。世界有数の情報統制国でも、生活に直結する国連制裁の情報はあっという間に拡散する

2016年3月17日(木)06時03分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

「おい、聞いたか」 電動自転車を停め、ベンチに座って携帯電話を使う男性。政治的な会話や海外との通話は危険だが、情報の拡散はもはや止められない(平壌、2015年10月) Damir Sagolj-REUTERS

 国連安保理における制裁決議を受けて、北朝鮮国内では不安や不満を口にする人が急激に増加している。外貨稼ぎのドル箱だった中国への石炭輸出がストップした話が市場の商人たちに伝わり、動揺は広まる一方だ。

 しかし、世界でも有数の情報鎖国として知られる北朝鮮で、制裁に関するこうした情報はどうやって拡散するのだろうか。情報の媒介となっているのは、実は携帯電話。

 北朝鮮では、既に370万台以上が普及している。人口がおおよそ2500万人で世帯数は約600万。単純計算だが2世帯に1台以上の普及率だから、さほど珍しいアイテムではない。もちろん、政治的な会話は極力避ける。韓国をはじめとする海外通話は、ケースによっては「処刑」につながる恐れがあるだけに、言葉を選びながら慎重に会話をしていることは想像に難くない。ただし、制裁による経済の変動は生活に直結、場合によっては生死に関わるだけに、完全にブロックすることは出来ないようだ。

(参考記事:北朝鮮当局、韓国と「携帯通話」した女性3人を「見せしめ」で処刑

 平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋によると、「国連で制裁案が満場一致で採択された」という情報は、携帯電話であっという間に広がったという。

 それだけではない。公式メディアが全く報じていない「中国への石炭輸出がストップした」という情報をはじめ、中国やロシアが制裁に賛同したこと、制裁決議の詳細な内容まで伝わっている。さらに、「羅津(ラジン)港、会寧などの国境の税関がすべて閉鎖される」との噂も広がり、不安がさらに高まっている。

 携帯電話だけでなく、草の根資本主義が急速に発展し、人の往来も盛んになったおかげで、こうした情報、噂、デマはあっという間に全国に広がるようになったのだ。「中国軍が攻めてくる」や「有事に金正恩元帥は飛んで逃げる」などのデマの類いもあれば、「元帥様(金正恩氏)は外でトイレもままならないため、専用車に代用品を乗せている」や「元帥様は、深夜に平壌市内をこっそりドライブしている」など、最高指導者のトップシークレットに関する話題も携帯電話や口コミを通じて広がる。

(参考記事:知られざる金正恩氏のトイレ事情

 ある意味、北朝鮮式情報革命が起きているとも言えるが、一部地域でのモノ不足、買い占めなどの話が平壌周辺に広がりつつあるのも携帯電話普及の影響と言える。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

外貨準備の運用担当者、FRBの独立性に懸念=UBS

ワールド

サウジ非石油部門PMI、6月は57.2 3カ月ぶり

ワールド

ロシア失業率、5月は過去最低の2.2% 予想下回る

ビジネス

日鉄、劣後ローンで8000億円調達 買収のつなぎ融
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索隊が発見した「衝撃の痕跡」
  • 3
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 4
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 5
    米軍が「米本土への前例なき脅威」と呼ぶ中国「ロケ…
  • 6
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 7
    熱中症対策の決定打が、どうして日本では普及しない…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 10
    「22歳のド素人」がテロ対策トップに...アメリカが「…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 6
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 9
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 10
    韓国が「養子輸出大国だった」という不都合すぎる事…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中