中国、軍の大規模改革――即戦力向上と効率化

2016年1月4日(月)13時30分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

「ロケット軍」の創設とは?

「ロケット軍」とは、これまで臨時に置かれていた「第二砲兵」(ミサイル部隊)の新しい位置づけによる名称である。これからは総参謀部の下に、「陸軍、海軍、空軍、ロケット軍」という形で、4大軍種が置かれることになる。

 従来の第二砲兵は1966年7月1日に創設されたもので、当時の毛沢東主席の批准を得て、当時の周恩来総理が命名したものである。陸軍の軍服を着用していたが、実際上は陸軍とは区別されており、核ミサイル攻撃に対応するため「国家機密」の必要から、「陸軍の第二砲兵」という装いの形を取ってきた。

 しかしこれからは「現代化ロケット軍」として、(アメリカ軍などを想定した)「敵対勢力」による「核」(核弾頭搭載可能な弾道ミサイル)の脅威から中国を守るのだという趣旨のことを、習近平・軍事委員会主席は創設大会で述べた。

 中国が現在保持している短距離弾道ミサイルDF-16(東風16、核弾頭搭載可能。グアムを射程に置ける)や準中距離弾道ミサイルDF-21D(東風21D、核弾頭搭載可能。射程約1500キロ)などは、あくまでも他国から攻撃された場合の「抑止力」として作用するのであり、敵から攻撃されない限り、中国は決して自ら積極的にロケット軍の武器を使用することはないとしている。

 その一方で、ロケット軍創設の目的は、「海の底」(原子力潜水艦)から天空(核弾頭搭載弾道ミサイル)までを包括的に掌握する立体的な核戦力掌握でもあると言える。

「軍区」から「戦区」への転換と「聯合作戦体制」

 習近平国家主席はまた中央軍事委員会主席として、「軍区」から「戦区」への転換と「聯合作戦体制」の構築に関しても指示を出している。

 中国の陸軍はこれまで「7大軍区」と呼ばれる7つの軍区に中国大陸を区分化し、総参謀部が管轄していた。7つの軍区には「瀋陽軍区、北京軍区、済南軍区、南京軍区、広州軍区、生徒軍区、蘭州軍区」があり、これは1985年6月に開催された中央軍事委員会拡大会議で決定されたものである。このとき100万人の兵力削減を行うと同時に、11大軍区を7大軍区に統廃合した。

 今般の軍事大規模改革では、昨年9月3日の軍事パレードで習近平国家主席が宣言した中国人民解放軍30万人削減とともに、「軍区」という概念を捨て、「戦区」によって中国の軍事力を高めることを狙っている。

 軍区という概念は陸軍や野戦部隊を中心とした守備で、現在のハイテク化した国際軍事情勢には適合しない。

 そこで7大軍区を4大(あるいは5大)戦区に分けて、「陸海空軍+ロケット軍」全体で「聯合作戦体制」を組み、即戦力を高めていこうという戦略だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中