最新記事

安全保障

消えゆく日本の「8つのノー」、湾岸戦争が安保政策の転機に

湾岸戦争で「小切手外交」と揶揄されたことが、日本がそれまでの平和主義と決別するきっかけになった

2015年12月21日(月)09時08分

12月21日、かつて「8つのノー」と表現された、集団的自衛権の行使や武器輸出などを認めない日本の安全保障政策のほとんどは、もはや過去のものになりつつある。防衛省で16日撮影(2015年 ロイター/Issei Kato)

 米国の著名な日本研究者ケネス・パイル氏は、集団的自衛権の行使や武器輸出などを認めない日本の安全保障政策を、かつて「8つのノー」と表現した。指摘のほとんどは、もはや過去のものになりつつある。

 関係者の多くは、四半世紀前の湾岸戦争が転機だったと指摘。「小切手外交」と揶揄(やゆ)された日本は平和主義と決別し、徐々に政策を変えていった。

砂漠で戦う米軍、雪像を造る自衛隊

 湾岸戦争さなかの1991年2月、陸上自衛隊の吉富望3佐は都内で米軍との図上演習に参加していた。室内にはテレビモニターが並び、米側の将校はCNNが映し出す砂漠の戦闘に気を取られているようだった。その傍らで、別のテレビが札幌雪祭りで雪像を造る自衛隊の様子を伝えていた。

「本当に同盟国なのか、なぜ砂漠の米軍の隣に自衛隊はいないんだ。そう言われた」──。今年4月に陸将補で退役し、現在は日本大学で教鞭を取る吉富教授は振り返る。中東に原油の9割を依存しながら、憲法の制約で自衛隊を派遣できない日本は、代わりに戦費130億ドルを負担した。

 それから四半世紀、日本は自国の領域外でも自衛隊の武力行使を可能にする法制を整備し、長らく堅持してきた武器の禁輸政策も転換した。大きく様変わりした安全保障政策は、強い日本の復活を目指す安倍晋三首相の主導によると思われがちだ。

 しかし、振り返ると転機は湾岸戦争だった。あのとき安全保障政策に携わっていた関係者が感じた屈辱が、日本に平和主義からの決別を決意させた。「今起きている変化のルーツはそこ(湾岸戦争)にある」と、吉富教授は話す。

 その一方で「今の日本を動かしているのは、中国に対する強い懸念だ」とも指摘する。

机を叩いて後方支援を迫った米軍

 西元徹也氏も、湾岸戦争時の「小切手外交」で苦い思いをした1人だ。「砂漠の嵐作戦」が始まった91年1月17日朝、陸上幕僚監部の副長だった西元氏は、東京南青山の官舎でテレビを見ていた。巡航ミサイルがイラク領内に向けて発射された瞬間、西元氏は迎えの車を待てず、21段変速の自転車に飛び乗った。

 当時は六本木にあった防衛庁に向かってペダルをこぎながら「日本は何もできないまま終わるのだろうか」と考え続けたという。「カネは出すが人的な貢献をしないと、国際社会に評価されないことがみんな分かった」と、西元氏は言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中閣僚級協議、初日終了 米財務省報道官「非常に建

ワールド

対カナダ関税10%引き上げ、トランプ氏 「虚偽」広

ビジネス

アングル:自動車業界がレアアース確保に躍起、中国の

ワールド

アングル:特産品は高麗人参、米中貿易戦争がウィスコ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 3
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任務戦闘艦を進水 
  • 4
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 5
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 6
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 7
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 8
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 9
    為替は先が読みにくい?「ドル以外」に目を向けると…
  • 10
    アメリカの現状に「重なりすぎて怖い」...映画『ワン…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 9
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 10
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中